後ろから声を掛けられた
後ろの方から声を掛けられた。聞き馴染みのある声に振り返ると、そこには同級生の杉元くんが、私と同じようにタオルを頭に被せて立っていた。
「やあ、ナマエさんも傘忘れたの?」
「杉元くん。うん、朝、今日は降らないって天気予報で言ってたから」
「だよね? 俺もそれ信じて持ってきてなかったから、やられたーってなってたところ」
「ふふ、仲間だね」
信号が赤信号から青へと変わる。お互いに顔を見合わせて同じポーズのまま走り出した。私より足の速い杉元くんはどんどん先に行くかと思ったけれど、何故か同じペースで進んでくれる。
「すぎ、もと、くっ! 濡れちゃうから、私の、こと、気にしなくて、いいよっ!」
少しだけ前を走る杉元くんに必死で声を掛けながら走るけれど、杉元くんは「えー? なんだってぇー?」と言ってペースを変えないまま走った。
次の信号に差し掛かった時、すぐ近くにコンビニがあったのでそこの屋根の下に入り僅かな時間雨宿りをした。
「杉元くん、私のこと気にせず走っていいんだよ?」
「あ、ペース合わせてたのバレてた?」
「そりゃわかるよ! ……杉元くんの家って、もう少し距離あるよね? 傘、買う?」
「んー、でももうすぐ止むかもしれないから」
「そっか」
また信号が青に変わったのを見て二人で走り出す。特に会話もないけれど、二人で同じように走っているのがなんだかおかしくって、つい笑いが溢れてしまう。
しばらくそうして走って時々立ち止まって休憩して、あっという間に私の家に着いた。雨は、まだ止む気配はない。
「ナマエさんの家ここだよね? 一緒に帰ってくれてありがとう!」
「ふふ、それはこっちのセリフ。なんか楽しかった。ねえ、杉元くん、ちょっと待ってて!」
「え?」
家の軒下に入るよう手招きをした後、私は家の中へ入り新しいタオルと使っていないビニール傘を持ってもう一度玄関を出た。
「もうタオル、びしょびしょじゃない? これ、よかったら使って」
「え、悪いよ」
「気にしないで。あ、そのタオルなんかの粗品だけど新品だから。返さなくてもいいからね」
「ありがとう」
「ふふ、家まだ誰も帰ってきてなくてよかった。お母さんとか弟たちに見られてたら、彼氏? とかうるさかったかも」
「……もしそうだったら、ちゃんと挨拶したのにな」
「え?」
「彼氏の座を狙ってます! ……なんてね」
照れたように笑った杉元くんを見て、顔に熱が集まっていく。普段から優しいなあ一緒にいて楽しいなあと思っていたけど、そんな、だってまさか杉元くんが私を、なんて。からかわれているのだろうか。
「ちょ、ちょっとーからかわないでよ」
「……本気だよ。考えといてほしいな。試験終わってからでもいいからさ」
「え、ちょ……」
「じゃあ、これありがとうね。また月曜日!」
言うだけ言って、杉元くんはにっこりと笑って去っていった。
考えといて、だなんて。試験終わってからでも、だなんて。そんなの無理に決まってるじゃないか。
結局週末は杉元くんのことで頭がいっぱいになってしまって、試験勉強に身が入らなかった。二人仲良く補習を受けることになったのは、また別のお話。
ひとこと
アオハル度高め、と勝手に思ってます。二人で雨宿りしながら走りたい。