二日目「睫毛・過保護・優しくして」

 キッチンでお昼ご飯の後片付けをしていると、リビングから大きな声が聞こえた。
「もうっ、やっ! ととしゃん、きやい!」
 随分と言葉が達者になってきた愛娘が、最愛の夫にそう言い放っていた。
 
 あらあらと洗い物の手を止めリビングへと戻ると、眉をキュッと顰め怒っているような悲しんでいるような顔をした夫と散らばった積み木の中で立ちすくんだまま大泣きする娘の姿がそこにはあった。
「もう、どうしたの?」
「とっ、ととしゃんが、私をおこるの!」
「俺はただ、片付けないと踏んで転けるぞと言っただけで……」
「ととしゃんこわいのっいやなのっ!」
 夫にとっても愛する娘からの容赦ない言葉の嵐に、どんどん彼の眉が下がっていく。会社では鬼の課長と言われているらしい彼のこんな姿を部下や同僚が見たらなんて思うのかしらと少し笑ってしまう。
「あのね? ととさんは、あなたが怪我したら悲しいから言ったのよ? いたいいたい、嫌でしょ?」
「……ぃや……」
「そうよね、じゃあお片付けしよっか?」
「でも、やーなのー! まだあそぶのー!」
「そっかそっか、まだ遊びたかったんだねぇ」
 ちらりと時計を確認して、きっと眠くてグズっているのも入っているなあと思い、そのまま娘を抱き上げて宥める。肩身の狭そうな夫に「大丈夫」と目配せをして、ゆっくりと娘を寝かしつけ寝室へと運んだ。
 
 少しして夫が寝室に様子を見にやってきた。人差し指を唇に当て、「今寝たよ」と小声で教える。先ほどまで流していた涙で濡れた睫毛が寝息に合わせて微かに揺れる。そっとその目元を優しく撫でながら夫はポツリと呟いた。
「俺は口うるさいんだろうか」
「さっきのは眠くて不機嫌だったのもあるから、そんなに気にしなくて大丈夫よ」
「だが」
「まあ、基さんはちょーっとばかり過保護なところもあるけどね」
「……やっぱりそうなのか」
「放任過ぎるよりはいいんじゃないかな。でも、もう少しだけ言い方を優しくしてあげて。この子はまだまだ子どもなんだから」
「そうか……そうだよな」
 天使のような寝顔の娘の頭をそっと撫でながら、夫はごめんなと小さく呟いた。幼少期に両親から愛情をあまり与えられて来なかったという彼には、我が子との接し方はどうすべきかわからない事がきっと多いのだろう。
「大丈夫、大丈夫だよ。起きたらうんと甘やかして優しくしてあげよう」
 そう言って笑いながら、娘の頭を撫でる夫の頭を、私は撫でた。あなたなりの優しさが、きちんと娘にも伝わりますように、と願いながら。

パパ島話が大好きなのでちょいちょい出てきます。