はぁまったく、呆れるな。僕は少し離れたテーブルから突き刺さしてくる視線の相手に冷たい目線を送りながらそんな事を思っていた。
やっと入ることの出来た鶴見教授のゼミ。その飲み会があると聞き、てっきり鶴見教授も参加するものだと思って参加はしたものの肝心の教授の姿はなかった。ちっとも面白くない飲み会で、少しは面白くなるだろうかと僕はある女の子の隣に座る。ある女の子。どうやらその子は、今まさに僕に痛いほどの視線を投げつけてくる百之助が気に入っている子らしい。
隣に座るかと思えば、変なところでシャイなあいつが躊躇っている間に別の男が彼女の隣に座り、じゃあせめて反対側は僕が座ってやろうとすればこのザマだ。ったく、そんなに気になるのなら自分から行動すればいいのに。まあ、僕が彼女と話すたびにこちらを気にしてる百之助の顔が面白いからいいんだけど。
テーブルに並ぶ食事を適当につまんでいると、彼女の反対隣に座った男が、酒に酔った勢いで彼女に変な絡み方をしている。あーあ、手なんか握っちゃって。彼女は困っているし、あっちの方角から凄い殺気を感じるんですけど。君大丈夫?
聞き耳を立てればどうやらデートのお誘いをしているらしい。酒が入っているとは言え、こんな大勢いるところでそれはちょっとスマートじゃないよねえ。そろそろ向こうのテーブルの人たちも百之助の異変に気付いてソワソワしているようだし、ちょっと助け船を出すか。
「ねえ、俺本当に君のことずっと前からいいなって思ってて、だから今度「もうその辺にしといたら? 彼女困ってるみたいだけど」」
困惑している彼女をよそになおも口説き続ける男の言葉を遮ると、男は眉を顰めてこちらを睨みつけた。
「おぉ怖い顔。こんなに人がいる中で誘われたら君もはっきりと断りづらいよねぇ? でもちゃんと嫌なことは嫌って言った方がいいよ」
「え、あ、あはは。そう……よね」
「あれ? それとも満更でもない感じ?」
「う、ううん。その……ごめんね、私他に好きな人いるから、そういうのには応じられない、です」
そう言いながら彼女がチラリと視線を送る。目配せをしたその先には、先ほどからこちらをじっと睨みつけていた百之助がいた、ような気がした。
なあんだ、上手くいきそうなんじゃん。
途端に馬鹿らしくなった僕は、彼女の腕をぐいっと引っ張って男から解放してあげて彼女に言った。
「百之助ってば、ずーっとこっち気にしてるよ。行ってあげたら?」
驚いたように彼女は目を丸くした後、顔を真っ赤にしながら小さく頷いて席を立つ。はあもう僕ってばナイスアシスト。残された男は恨めしそうにこちらを見ているけれど、知ったこっちゃない。
さあて、明日あたり百之助に何か奢ってもらおうかな。きっとそれくらいは許されてもいいだろう、なんてぎこちなく隣に座って話している二人を見ながら思うのであった。