「ありがとうございました」
自動扉の外へと出ていくお客様を見送って小さく息を吐いた。お歳暮のシーズンがようやく終わり、店も少しずつ落ち着いてきた。だが、クリスマスを過ぎた頃からは年始に向けてお茶を買い求める人が再び増え、加えて福袋の準備もある。師走の忙しさは、お茶屋にも容赦なく襲いかかってくるのだ。
少しだけ奥に入り一息つこうかと思っていたところで、再び自動扉が開く音がして、反射的に「いらっしゃいませ」と振り返る。そこに立っていたのは、よくいらっしゃるモデルのような男性だった。
「いつもありがとうございます。今日はどうされますか?」
「今日は、その……特別希望はないのだが」
「そうなんですか? では、新春に向けて出している期間限定のお茶はいかがですか? よければ試飲も出来ますよ」
「ああ……では、それを頂こう」
いつもより幾分か歯切れの悪い彼のその様子に首を傾げつつ、試飲用のお茶を運ぶ。ゆっくりとそれを味わった後、「うん、これを包んでくれ」と彼は言った。
丁寧にお包みし、会計を終えてお品物を渡すと、いつもなら満点の笑顔を返してくる彼がぎこちなく笑った。
「失礼を承知で聞くのだが」
「? はい、なんでしょう」
「今度の土曜日は、貴女は仕事だろうか」
「土曜ですか? ええと、早番で仕事には入ってますが昼過ぎには終わりです」
「その、もしよければ、日本茶ではなく紅茶とケーキの美味しい店があるんだが、一緒に行きませんか」
「えっ」
あまりに突然のお誘いに、私は目を丸くして彼を見上げる。少し視線をそらした後、彼はまっすぐに私を見つめ直して尚も続けた。
「正直に言おう、ずっと前から貴女の事が気になっていた。土曜日、またこの店に来るので、もし貴女が嫌でなければデートしてくれないだろうか。その、予定など何もなければ」
「え、あ、は、はい。では、あの、お待ちしております」
あまりにまっすぐ見つめる瞳が眩しくて、気圧されるように私は頷いた。いつもの太陽のような笑顔を浮かべて嬉しそうに去っていく彼を見送りながら、今度の土曜日はクリスマスイブだという事を思い出していた。忙しいだけの日々に、色がついたような気がした。