クリスマスツリー

 もうそんな時期か、と思ったのはショッピングモールの中にそびえ立つ大きなツリーを見たからだった。
 確かに、少しずつ訪れるクリスマスの足音に気づいていなかったわけではない。娘が毎週楽しみに観ている戦う女の子たちのアニメでも、合間のコマーシャルでここぞとばかりに変身アイテムを紹介していた。――子供でいたい、ずっと。大好きなおもちゃに囲まれて――共感してしまうからなのか頭に残るあの音楽もクリスマス仕様になっていた気がする。
 新しくもこもことしたフリース素材の上着を買ってもらいご機嫌な娘も、おっきーいと目を輝かせてツリーを見上げている。手をしっかり握って支えていないとそのまま後ろへ倒れてしまいそうな勢いだ。
「ねえねえ、おうちのツリーはまだ出さないの?」
 まさに今、そろそろ我が家のツリーも準備せねばと考えていた私はひくりと頬を引き攣らせた。この子が生まれた年のクリスマス。何を思ったか私の父が奮発して贈ってきたそれは、お礼よりも先に我が家の広さをわかっているのかと小言を言ってしまいたくなる大きさだった。初孫可愛さ故の行動なのがわかっているので、もちろんそれはグッと堪えたが。
 大きなツリーというのは、確かにそこにあるだけで素敵ではある。元々クリスマスは好きなので、毎日家に豪華なツリーが目に入るのは心躍るものがあった。
 ただしそれを出してその後しまうという一連の流れを考えると、ほんの少し腰が重たくなるのは仕方のないことだと思いたい。

 *

 買い物を済ませ、お昼ご飯用にフルーツサンドを買って家路に着こうとすると、ほんの少しだけでいいから遊び場に行きたいと娘が手を引き言った。いつもなら宥めて帰るところだが、今日は本当であれば三人で動物園に行く予定がなくなってしまったのだ。今日くらい、少しくらいならいいだろうとモール内にある有料のキッズスペースへと連れて行った。
 ふわふわの滑り台やボールプールがある中、キラキラした表情でおままごとセットで遊ぶ娘に、おうちでもいつもやってるのにと笑みが溢れた。今年のクリスマスは、予定していた自転車よりもおままごとグッズ増殖の方が喜ぶかもしれない。帰ったらパパに相談してみなくっちゃ。
 一時間ほど遊んで気が済んだらしい――と言うよりお腹が空いたらしい――娘を連れ、今度こそショッピングモールを出た。まだ寝ているかもしれない基さんに念の為メッセージを入れる。
『起きてる? これから帰ります。お昼ご飯買ってます』
 なかなか既読がつかないところを見ると、やはり起きてはいないかもしれない。無理もない。ここのところ残業続きで、昨夜も帰ってきたのは日付が変わる頃だった。前々から予定していた動物園には必ずと基さんは言っていたが、予報でも天気はあまり良くないらしいしまた今度にしようと話して眠りについた。
 外をキラキラとした目で眺めている娘が、ポツポツとバスの窓に落ちてきたのに気付いて「動物園、今度にしてよかったね」と小さく笑った。

 *

 もしパパが寝ていたらいけないから、とそーっと扉を開けて帰宅したけれど、リビングから物音がしているのにいち早く気付いた娘は「パパー! ただいまー!」と駆けて行った。わあぁ〜! 感嘆の声が聞こえたのでどうしたのかと後を追うと、大きなツリーが準備されていた。
「おかえり。すまん、メッセージ今気付いた」
「ただいま。ありがとう、ツリー出してくれてたの?」
「二人が気を遣ってくれたのに悪いが、割とすぐに目が覚めてな。十二月になったしそろそろと思って」
「パパすごーい! さっき、ツリー出そうってママと言ってたんだよー!」
「本当。さすがパパだね! ありがとう、これ大きくて私一人では出すの大変だから助かっちゃった」
 ワクワクした顔でまだ飾りのついていないツリーに早速オーナメントをつけようとする娘に、「先に手を洗ってご飯食べてからにしよう」と言うと空腹を思い出したのか慌てて洗面所へと走って行った。
「何よりも食い気だな、あの子は」
「本当、誰に似たのかしら」
 何か言いたげな基さんに気づかないふりをしながら私も洗面所へ行き、娘と二人で手を洗った。
「手を洗う時の台に登ったら、お星様もつけられるかなぁ?」
「うーん、それでもちょっと足りないだろうからパパに抱っこしてもらおうか」
「それがいいかも!」
 飾り付けの段取りを考えながらクリームをたっぷり口につけてフルーツサンドを頬張る娘。それを愛おしそうに眺める基さん。大好きな二人と過ごすこんな日は、予定とは違ってしまったけれどいい休日になったなと胸が暖かくなった。

このシリーズでは同一世界線を時系列バラバラに描いています。月島相手ベースに恋人時代だったり、娘がいたりと様々です。次はどの時系列が来るんだと楽しんでいただけたら幸いです。
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