クリスマスリース

 街が少しずつ浮き足立つ気配を感じると、そろそろ今年も作ろうかという気持ちになる。
 この習慣はいつから始めたのかもう覚えてもいない。物心ついた時からそうだった気がする。最初は折り紙で、次はトイレットペーパーの芯で、ある時は色付きの針金モールで。学生の頃は、その話をした友人が面白そうと言ってくれ何人かで材料を買いに行って一緒に作ったっけ。
 大人になってからも、なんとなくの習慣でつい今年はどんなものにしようかと考えてしまう。今日は定時で仕事も終わりそうだし、帰りに店を覗いて帰ろう。

 *

 帰宅して早速買ってきたものを広げた。今は百均でほとんど全ての材料が揃うから、すごいなあと感心してしまった。長年も使う用に作るのならばちょっと心もとないが、ワンシーズン用でならば十分だ。
 時計をチラリと見る。今日はそこまで遅くならないと月島さんは言っていたから、先に夕飯の支度をしていよう。そのあとで、もしくは夕飯を食べた後に制作に取り掛かるとするかと思って私はエプロンをつけた。
 と言っても休日に作り置きしていた副菜があるので、メインとお味噌汁さえ作ればそれでおしまい。今日は豚の生姜焼きだ。下味冷凍していたお肉を朝冷蔵庫に移しておいたから、あとは焼くだけ。細切れ肉で作る生姜焼きだから、一緒に玉ねぎも焼いてしまおうと小ぶりな玉ねぎをカットする。三分の一ほどはお味噌汁に入れるようにして、あとの具はわかめと豆腐にしよう。シンプルだけど、我が家の一番安心する味だ。
 思ったより早く夕飯も出来上がったけれど、月島さんからの帰宅連絡はまだ入らない。エプロンを外して、先ほど広げた材料たちを眺め頭の中で組み立てていく。いつもは赤と緑をベースに作るけれど、今年はホワイトとゴールドをベースにしたくてそれに合わせた材料にした。
 これはこっちに、いやこのリボンはこっちがいいかな、なんて仮置きしている間にスマホが震えたことに私は気づかないままだった。

 *

 月島さんからのメッセージに気付いた直後には、玄関から鍵を開ける音がしていた。
「わ、おかえりなさい。ごめん、全然メッセージ気付いていなかった」
「ただいま。今日は定時って言ってたのにと思ったんだ。飯作ってたのか?」
「ううん、ちょっと違うことしてて」
 ひんやりした空気を纏ったまま部屋に入ってきた月島さんを出迎える。普段暑がりな彼だけど、かと言って寒さに強いわけではないらしい。しっかりと暖かそうなコートに身を包んでいる月島さんは、なんだかかっこいいのに可愛くて好きだ。思わずギュッと抱きつきたくなってしまう。
「ご飯は出来てるから、すぐに温め直すね」
「ありがとう。……これ、何だ?」
「ん? あぁごめん、散らかしたままだった。クリスマスリース作ってたの」
「クリスマスリース……? って、作るものなのか?」
 コートを脱ぎネクタイを外しながら、月島さんはローテーブルの上を見て首を傾げた。
「うちでは、毎年作ってたの。大人になってからも、なんとなく作ってて」
「買ったのを飾るんじゃなくてか」
「うん。なんでだろう、確か最初は何か理由があって作ってたんだよね。忘れちゃった。とりあえずご飯用意するから、着替えておいでよ」
 簡単に片付けをしてキッチンへ向かう。部屋着に着替えて手を洗った月島さんがお箸やコップを出してくれた。ご飯やお味噌汁をよそってそれぞれ並べ、席についていただきますと手を合わせた。
「調べてみたんだが、豊作祈願の意味合いもあるんだな。リースって」
「へぇ、そうなんだ。それでなのかな」
 うちは母方の実家が米農家をしているので、もしかしたらそれで母は毎年作っていたのかもしれない。
「ナマエの家、キリスト教だったか?」
「ううん。無宗教というか……ごちゃ混ぜって感じかな。仏壇と神棚が隣の部屋にあったりするし」
「確かに、そうだったな」
 同棲する前に一度私の実家に来た事のある月島さんは味噌汁に口をつけながら思い出すような素振りをした。
「あーでもお母さん、昔カトリック系の学校に通ってたはず。それも影響してるのかもなぁ」
「本当にごちゃ混ぜな家なんだな」
「ふふ、熱心な人には怒られそうだけど」
 私がお皿を運ぶ間、珍しくスマホで何かを調べていると思ったけれどそんな事を調べていたとは。
「他にも何か意味がありそうだった? クリスマスリース」
「ん? あぁ確か他にも……」
 私が半分食べ終わる頃にはすっかり完食してしまった月島さんは、さっさと食器を流しにつけてスマホを持ってもう一度椅子へと座った。先ほど調べていたらしいページを見ながら「魔除けだとか、新年の幸福祈願だとかもあるらしい」と教えてくれた。
 ふぅん、と聞いていると彼は画面の上を滑らせていた指をぴたりと止め、そして私の方をじっと見つめた。
「あとは、永遠の愛らしいぞ」
「ん?」
「丸い輪の形が、始まりも終わりもない永遠の象徴らしい」
「そうなんだ」
 他愛ない会話だというのに、普段月島さんの口からはあまり出てこない愛という言葉が、私の顔を熱くさせる。なんだろう、くすぐったい。
「可愛いリース、出来るといいな」
「うん。頑張って作るね」
「何か俺でも出来ることがあれば手伝うぞ」
「多分大丈夫。でももしもの時はお願いね」
 お茶を飲んでいる月島さんと話しながら、私はゆっくりとご飯を食べた。それから、彼がお風呂の準備をしてくれている間に食器を片付けて、順番にお風呂に入った。月島さんは長風呂だからとその間に少しだけリース作りを進めていたのに、いつもより早く出てきた彼は、缶ビールを開けながら作業をしている私をじっと眺めていた。
「なぁに?」
「どうやって作っているのかなと思って。気が散るなら向こうへ行く」
「ううん、大丈夫。ね、この飾りはこっちとこっち、どっちがいいと思う?」
「俺はセンスがないから、聞かないでくれ」
 そんな会話をしながら、少しずつリースを作り上げていく。この先もずっと、こうやってこの人の隣で幸せを願いながらリースを作れたらいいな、なんてささやかなお願いを込めて完成させたリースは、いつも以上に綺麗に出来たような気がした。