プレゼント

「クリスマスプレゼント、何がいい?」
 夕飯を終えた基さんが、不意にそういった。毎年お決まりの挨拶のようなその言葉に、私はうーんと考え込む。
「どうしよっか。ねえ、まだ赤ちゃんだけど、やっぱりサンタ制度今年からした方がいいかな?」
「ん?」
「物自体はね、指先で遊ぶ力をつける木のおもちゃみたいなのがいいなと思ってるんだけど。でもハイハイが出来そうでまだって感じだから、何か追いかけて遊ぶみたいなのも気になってて……」
「あー、ちょっと待ってくれ。俺はナマエのプレゼントの話をしたんだ」
「えっ、あーそうだったんだ」
 確かに、今まではそうだったのに。つい娘が産まれてからそこが第一優先になっているところがある。
「んー、でも私はいいよ。今年からはクリスマスはプレゼントなしにして、その分誕生日にしよ。クリスマスは娘を喜ばすこと最優先で、って言うのはどう?」
「まあ、それもそうだな。……でも不思議な感じだな。サンタ側になるのか」
「ふふ、ドキドキしちゃうね」
「あれか? やっぱり、サンタの格好とか買っておいた方がいいのか?」
「えー? そこまで本格的にしなくてもいいんじゃない?」
 真っ赤なサンタクロース姿に身を包んだ基さんが、こっそり娘の枕元にプレゼントを置く姿を想像して思わず笑ってしまう。彼は頭をかきながら「そうか……」と呟いた。
「俺の家にはサンタが来たことないからな」
 その一言で、溢れていた笑みが止んだ。そうか、確かに彼から聞いた家庭環境では、そうだったのかもしれない。
「じゃあ、とりあえず今年からお互いのプレゼントはなしだな。あの子へのプレゼント候補、また何かいいのあったら教えてくれ」
「うん、わかった。探しておくね」
 お風呂へと向かう基さんの背中を見つめながら、やっぱり彼へのプレゼントは用意しようと決意した。直接渡すのではなく、枕元にサンタからとして。初めて彼がサンタになった夜、彼もサンタからプレゼントをもらえたらと思った。

 そう決めてから、彼へのプレゼントをすぐに買いに行った。少し前にスマホを買い替えたのに、同じサイズで使えるからとボロボロのケースを未だ使っている彼に革製のものを選んだ。高すぎずちょっとしたプレゼントくらいなら、ちょうどいいだろう。綺麗にラッピングしてもらって、家のクローゼットにこっそりと仕舞い込んだ。
 二人で娘へのプレゼントを枕元にセットして、その後で私は夜間授乳をするタイミングにでもそっとベッドを抜け出し基さんの枕元にプレゼントを置こう。夜泣きというほどではないが、まだ夜中にふにゃふにゃと起きるムスメの寝顔を眺めながら、何度かそんな脳内シミュレーションを重ねた。もしくは、大抵の場合私の方が基さんが起きるより早いのだから朝イチで置けばいい。

 そしていよいよ決行の日。基さんは緊張した顔をしながらムスメの枕元にプレゼントをそっと置いた。起きる気配のない娘にホッとしながらリビングへと戻る。
「ふふ、初めてのサンタミッション成功だね」
「だな。だけど、やっぱりまだあの子にはわからないんじゃないか?」
「まあ、そうかも。でも例えば、朝起きてすぐ枕元にプレゼント置いてあるのを見つけた瞬間の写真とか動画とか撮ってたら、少し大きくなった頃に見せて『赤ちゃんの時からサンタさん来てたよ』って話せるかも」
「確かになぁ」
 自分で提案しながら、いいかもしれないと思った。明日の朝、枕元のプレゼントにキョトンとする娘と基さんの姿を撮影する自分を想像してにやけそうな顔を必死で堪えていた。

 ところが翌朝、私は慌ただしく飛び起きた。こんな時に限ってムスメは夜泣きをすることもなく、すやすやと朝まで寝てしまっていた。しかも基さんの姿もない。計画失敗だと項垂れながら、いつものようにヘッドボードに置いたスマホを取ろうと手で探る。いつもとは違った感触を指先に感じ、不思議に思って振り向くとそこには小さな袋とメッセージカードが置かれていた。
『いつもご苦労さま。たまには娘の事ばかりでなく、自分の事も労わるように サンタより』
 見慣れた力強いその文字を読み終えると視界が滲んでいく。袋を開けると、気になってはいたが小さい娘がいる間は危ないかと購入するのを躊躇っていたアロマキャンドルが入っていた。
 まだ夢の中の娘を起こさぬよう気をつけながらベッドから降りると、僅かに開いた寝室のドアに気がついた。こっそりと覗く、ボロボロのスマホケース。
 泣き笑いして駆け寄った私の姿を動画におさめていた我が家のサンタクロースは、いたずらっ子のような顔をして笑った。同じ事を考えていたのかと思うとおかしくって、だけど彼の方が上手くいった事が悔しくて。
 その後思った通りキョトンとしている娘の動画を撮りながら、計画よりは一日ズレたけれど、明日の朝こそは基さんの驚く姿を見てやるんだからともう一度脳内シミュレーションを繰り返した。
 あわてんぼうならぬ、おっちょこちょいのサンタに彼が目を丸くするのは、それから二十四時間後の事だった。

2023年版アドベントカレンダーSSこれにて全てとなります。いつか時系列を整えながら書き下ろしを加えてこの二人のお話を本にしたいと思っています。2024年クリスマスまでには叶えばいいなと思っています(なおこの後書は2024年4月に書いています)

【2025年5月追記】再録半分書き下ろし半分の本を作りました!在庫はまだありますのでWEBイベントの際にでもまた出します!
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