二人の世界を重ねて

 初めて彼からプレゼントをもらったのは、秋の訪れがまだ見えない九月の終わり。私の誕生日だった。付き合って一ヶ月ほど、それでも二人で小さなケーキを一つずつ買って彼の家で食べて、プレゼントを二つもらった。華奢なゴールドのブレスレットと、アイボリーのカシミヤストール。どちらも可愛いけど、二つは多くない? とか、ストールは季節的に早くない? とか色々思いながら、それでも彼が色々悩んでこれを選んでくれたのだろうかと思うと嬉しかった。
「早く使いたいけど、まだまだ暑いね」
「そのうちすぐ寒くなる」
「前から思ってたけど、尾形くんって寒がりっぽいよね」
「暑いのも苦手だけどな」
 エアコンが効いた部屋にいるとすぐにカーディガンを羽織るくせに。そう言うと尾形くんは私の髪をさらりと撫でた。彼と付き合い始めた頃に思い立って切ったボブショート。毛先が首をかすってくすぐったい。
「まだ見慣れない?」
「いや」
「やっぱり尾形くん、髪長い方が好きだった?」
「別に」
「成人式終わったら切ると思ってたのがズルズルタイミング逃してたからさ。こんな事なら、もっと逃し続ければよかったかな」
「どの髪の長さでもいい。それに、髪なんてすぐに伸びる」
 残念ながら、私は尾形くんみたいに髪が伸びるのは早くないんだよなぁ。そんな事を思っていると髪を撫でていた彼の指先が頬に触れた。視線が絡み合って瞼を閉じて、私は彼の体に閉じ込められた。

 ***

 季節はいつだって気がつけば変わっている。少し前まで暑い暑いと漏らしていた女の首元に、いつぞや贈ったストールが巻かれていてももう不釣り合いではなくなっていた。
「ようやく使えた。これ、すっごくあったかい」
「言っただろ。すぐ使えるようになると」
「うん。本当にあっという間だった」
 季節の先取りが過ぎるでしょ。この贈り物を見た時そう言った女が、同じ笑顔を浮かべてこちらを向いた。その拍子にふわりと揺れる髪は、あの頃よりも長くなった。内側にすとんとまとまっていた毛先が、ひと束だけよそを向いている。
「髪、少し伸びたな」
「でしょ。最近はねてきちゃって……ねえ、やっぱり尾形くんて髪長い方が好きだった?」
「だからどっちでもいい」
 恋人同士になってすぐ、なんの前触れもなく髪を切った女は何度もそう俺に尋ねた。そんなに気にするくらいなら先に聞けとも思うが、正直言ってどちらでもいい。別に容姿に惹かれて付き合っている訳ではないのだから。だがそんな事を言ってしまえば、「中身が好きってこと〜?」と浮かれて戯れてくるのが手に取るようにわかるので、何も言わずに目を細めた。
「あ、さては呆れてるな」
「ははぁ、よくわかったな」
 どちらでもいい。本心だ。強いて言うなら、こいつに似たロングヘアのモデルが使っている広告写真を見てストールを手に取ったから、想像図が異なったくらいだ。だがこの贈り物を使う季節になっても、俺の隣にいてくれたらというあの頃いただいたささやかな願いが叶ったのだから、それくらい取るに足らない事だった。
「出会った頃の長さになるまで、どれくらいかかるかな」
「さあな」
 不意に冷えた手が温もりに包まれる。それまで仲良くしてようね、その言葉と共に握りしめられた手の先で、繊細なゴールドが揺れていた。

 ――ささやかな願い・浮かれた・あっという間

2024年は取り掛かりが遅く5日間のアドベントとなりました。
季節先取りの贈り物を送って、それを身につけるまでは一緒に過ごせるようにという願掛けする尾形がいたら可愛いなぁと思います。