傘を持っていない私は、/深海マーメイド

傘を持っていない私は、

Without an umbrella, I…

ようやく内容が理解出来た

 ようやく内容を理解出来て、思わず小さくガッツポーズをした。
 また後で同じところを見た時に忘れてしまわないように、どこがどう結びついてこうなるのかというのを自分なりにノートにまとめていき、改めて問題集で似たような問題を解いていく。サラサラと解ける手応えにまた嬉しくなりつい顔を綻ばせていると、不意に誰かが隣に座り、そして声を掛けられた。

「その様子だと、わかったみたいだな」
「こ、鯉登くんっ?」

 そこに居たのは、褐色の肌に特徴的な眉、そして非常に整った顔立ちの同級生である鯉登くんだった。衣替え移行期間で、最近半袖に切り替えた制服の袖から伸びる健康的な腕で頬杖をつき、反対の腕を私のノートへと伸ばした。

「ああ、この部分か。今日の授業のやり方だと少しわかりづらかったな」
「そうだよね? なかなかわからなくて……」
「こっちを参考にした方がわかりやすかったぞ、ほらこのページの」
「えっ? ……あー、なるほど」
「でも、自分で理解出来るまで頑張ってたな」
「……見てたの?」

 鯉登くんに教えてもらったページを開いたまま、教科書で顔半分を隠した。必死こいて教科書とにらめっこしてるところを見られていたのなら、なんだか恥ずかしい。
 そんな私に向かって鯉登くんは目を細め、優しく微笑んだ。

「時間を潰そうと自習室に来たらナマエを見つけてな。あそこに座って様子を見てたんだ」
「声掛けてくれたらよかったのに」
「そうしようと思ったが集中してるようだったから」
「鯉登くんがいたなら最初から質問すればよかったな」

 彼は見た目が整っているだけでなく、勉強も出来る。成績だっていつも上位だ。ガリ勉というイメージがなく元々賢いのだと思っていたけど、こうやって自習室を利用して勉強するのだから陰ながら努力しているタイプなのかもしれない。

「でも自力でちゃんと理解出来たんだろう?」
「ん。まあ、一応」
「その方が自分の実になる。いいことじゃないか」
「そうかな。そうかも」

 きっと試験でこの問題が出たら、しっかりと解ける気がしている。つまりはそういう事なのだろう。

「あー、だがもしまだ他にわからないところがあるなら、一緒に勉強して教えてやらんでもない」
「本当?」
「ああ。どうせまだ雨も止まないだろうし」
「鯉登くんも傘がないの?」
「いや、折りたたみを持ってはいる。ただ、兄さあ……兄が、今日は仕事が早く終わるらしくてな。雨が降り出したし帰りに迎えに来てくれると連絡があったから、少し待つ為にここにいたんだ」
「へぇ。お兄さんと仲良いんだね。いいなあ」
「なんだ、ナマエはもしかして傘がないのか」
「あー、うん。実は」

 へへ、と笑うと鯉登くんは仕方ないと小さく笑った。もしかして、折りたたみ貸してくれたりするんだろうか。だったらすごく助かるなと窓の外をチラリと見ながら思う。先ほどの思惑は外れて、雨はまだまだ止みそうにない。

「よかったら、一緒に乗っていくか」
「……え、いやいや。そんな」
「ナマエの家はすぐ近くだっただろう。気にするな」
「でも、悪いよ」
「代わりに、勉強に付き合ってくれ。誰かと時間を決めて取り組んだ方が集中出来る気がする」
「……うん。じゃあ」

 私が頷くと鯉登くんは嬉しそうに笑って、自身のバッグを先ほどまで座っていた席から持ってきて隣に座った。
 結局その後一時間ほど二人で黙々と勉強をして、その頃には雨はほとんど気にならないくらい小雨になっていた。だけど、遅くなったからと鯉登くんが半ば私を引きずるようにお兄さんの車に乗せてくれ、家まで送ってくれた。雨雲のせいで暗く感じるけれど、大して遅い時間ではなかったのに。
 クラスで密かに憧れていた鯉登くんと、こんな出来事があるなんて。雨だからと諦めて帰らず勉強を頑張ってみた自分へのご褒美かもな、なんてこっそりと思いながら、私は助手席に座った彼の顔を斜め後ろから盗み見ていた。お兄さんに何か言われて、「かの……っ、ちごっそんなんじゃなか……っ」と褐色の肌が赤く染まるのを見て、この時間のことを忘れたくないなと考えていた。

 

――鯉登END――

ひとこと

鯉登くんが同級生ってだけで勝ち組な気がしませんか。


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