傘を持っていない私は、/深海マーメイド

傘を持っていない私は、

Without an umbrella, I…

自習室へ戻って勉強することにした

 単語帳を閉じて、自習室へと戻りしっかり勉強することにした。どうせ帰れないなら、その方が幾分かいいような気がしたからだ。
 靴を上履きへと履き替え、廊下を歩いていくと反対側から見知った同級生の姿を見つけ声を掛けた。

「あれ、宇佐美くん。今帰り?」
「うん。ナマエは何してんの。忘れ物?」
「いやー、帰ろうと思ったら雨降ってきちゃったから。今日傘ないからしばらく勉強して様子見ようかなって」
「ふーん? でも、この後まだ雨止まないと思うよ。むしろ酷くなるんじゃない?」
「え、そうなの⁉︎」

 窓から空を見上げ、朝の天気予報はなんだったのだと恨めしく思った。雲の流れは早そうだけれど、それでも暗い色をした雲はまだ続いている。

「酷くなるなら、今のうちに帰る方がマシかなぁ……」
「どの道濡れるならね」
「あーぁ、天気予報なんて信じるもんじゃないね」

 憂鬱な私とは裏腹に明るくケラケラと笑う宇佐美くんを見る。手にはしっかりと折り畳み傘が持たれている。

「まあ、こういう時のために折り畳み傘は持っておくべきだと思うよ〜」
「はいはい、私と違って宇佐美くんはちゃんと用意してて偉いですね!」
「あ、そういう棘のある言い方する? せっかく入れてあげようと思ったのに」
「えっ! うそうそ、ごめん。さっすが宇佐美くん!」
「うわ、嘘くさすぎるんだけど」

 ごめんってば、と笑いながら手を合わせて謝ると、宇佐美くんは「仕方がないなぁ」とわざとらしくため息をつきながら笑った。憎まれ口を叩きながらも、なんだかんだと彼が面倒見がいいことはよく知っている。クラスメイトが困っている時、いつだって彼はめんどくさいとかなんだとか言いながらもそっとフォローしているから。
 その事を指摘すると「下に弟とかがいるから、なんか困ってるやつの世話焼いちゃうんだよな〜」と溢していた。私だって下に兄弟がいるから気持ちはわからなくもないけど、それでも彼ほどは面倒見がいい方だとは思わないから、きっと彼自身の性格なんだろうと思う。

「そういや、宇佐美くんところも弟くんたちまだ小さいよね? 試験勉強、家で集中して出来る?」
「ん? うーん、まあちび達が構ってくれって邪魔してくるから、家じゃあんまり。夜やるしかないよね」
「やっぱりそうなるよねぇ」

 今来たばかりの道を戻り、下足箱で再び靴を履き替えながらそんなやり取りをする。

「何、ナマエも家じゃ集中できない感じ?」
「うん。なかなかねぇ〜。だから本当は今日も勉強して帰りたかったんだけど」
「雨が降ってきて諦めちゃったわけだ」
「そういうこと」

 靴を履き終わった宇佐美くんは、外へ出る前に一瞬姿を消す。あれ、と思っていると先ほど持っていた折り畳みとは別の大きな傘を持った宇佐美くんが戻ってきた。

「あれ、普通の傘も持ってたの」
「ん、まあね。だから、こっち貸してあげる」
「えっ」

 ほら、と差し出された折り畳み傘をキョトンとしながら受け取ると、宇佐美くんはニヤニヤと笑いながら口を開いた。

「なぁに? 僕と相合傘して帰りたかった?」
「なっ! べ、別にそういう訳じゃないけどっ!」

 だけどさっき「入れてあげる」と言っていたから、てっきり二人で一つの傘に入るものだと思っていたから、思わずキョトンとしてしまったのだ。そう説明しようとするけど、それより先に宇佐美くんが続ける。

「だって僕とお前、家逆方向だし。こんな小さな傘で二人して少しずつ濡れて帰るの、意味ないでしょ」
「……まあ、確かに」
「ははっ、納得してなさそう〜そんな残念そうな顔しちゃって」
「し、してないっ」

 宇佐美くんと私の家は近いといえば近いけれど、一緒なのは途中までだ。だから、彼の言い分は正しい。それでも、家に帰るまで宇佐美くんが送ってくれるのかとかそれまでは一緒にいられるのかとか、ほんの少しだけ思ってしまった分だけ表情に現れてしまったらしい。

「途中までしか一緒に帰れないけど、その分土日どっちか一緒に勉強する?」
「えっ?」
「お互い家じゃ集中出来ないならさ。図書館でも行って、二人でやったらいいじゃん」
「……うん」

 私が小さく頷くと彼はまたニヤリと笑って「ほら、それじゃ早く帰ろ。雨が強くなる前に」と言った。歩き出す彼に慌てて私もついて行く。
 帰り道、試験範囲のどこがわからないか苦手な科目はどれかなど話しながら、ゆっくりと歩いた。傘を叩く雨音が少し強くなる頃、それぞれの家への分かれ道へ差し掛かる。

「じゃあ、また明日、図書館集合ってことで」
「うん。傘、その時返すね」
「よろしく。じゃあね」

 背中を向け手を振る宇佐美くんを見送って、私も家路へと向かう。雨粒は大きくなってきて、折り畳み傘じゃ少し心許ないほどになってきたけれど、私の心は浮かれていた。学校以外で、宇佐美くんと会う約束が出来るなんて思ってもなかったからだ。
 明日、何を着て行こう。勉強会をするだけだと言うのに私はそんな事を考えながら、浮き足だって家へと帰った。

 翌日の勉強会。しっかりと晴れている天気の中、彼に返すための折り畳み傘しか持って行かなかった私が、帰りに雨に振られ「少しは学習したら?」と呆れ気味の宇佐美くんに結局家まで相合傘で送ってもらうことになるのは、また別のお話。
 
 

――宇佐美END――

ひとこと

お兄ちゃん属性の宇佐美ばかり書いてしまう。好きなんだなぁ。


<<一つ前に戻る一覧へ戻る最初からやり直す>>

深海マーメイド

Template by NINA