スイカ割り-鯉登-
当たりを引いたのは、プライベートビーチに招待してくれた鯉登さんだった。
「おいん腕の見せ所じゃな」
そう言って勇ましく目隠しをつけぐるぐると数度回り棒を剣のように構える。そういえば、鯉登さんは剣道をずっとされているすごい方なんだと聞いた事がある。目が回っているはずなのに堂々とした立ち姿に流石だなぁと感心した。
「鯉登さん、もう少し左です」
「鯉登ちゃん、そのまままーっすぐ!」
「あ、そこですそこでストップ!」
各々指示を出し、私が最後に指示を出したところで鯉登さんは大きく振りかぶり、キエエェェェと叫びながら棒を振り下ろした。鈍い音がした後、赤と黒の物体が飛び散る瞬間を見た。
「おいおい……」
「スイカ割りでこの惨状、初めて見たかも……」
「まあ、鯉登さんが正確に割れたらこうなるんじゃないかとは思いました」
「いやぁ流石でございもすなぁ」
皆が口々に感想を述べる中、目隠しを外した鯉登さんはキェ……と小さく呟いて茫然としていた。
そこにあったはずのスイカは跡形もなく、木っ端微塵にされており、切り分けるつもりでスタンバイしていたアシㇼパさんも包丁を片手に唖然としていた。
「っあはははははは」
あまりの光景に私は思わず大爆笑してしまった。中には飛び散ったスイカの破片が頭や顔についている人達も、私につられて笑っていた。
「あーもー、面白すぎます。なかなかここまでスイカ割れる人いないですよ!」
「そこまで笑わんでもいいだろう」
「や、だって、めちゃくちゃ貴重な体験ですよこれ。あはは、スイカ食べるより全然美味しい体験です!」
鯉登さんに失礼なくらい大笑いをしてしまい、気を悪くしたんじゃないかと心配していたが、どうにもツボに入ったらしくて止まらなかった。そんな私を解せないといった顔で鯉登さんは見ていたが、あまりに笑う私を見て、ふっと笑った。
「まあ、ナマエがそれだけ笑う姿を見れたんだから、いい体験になったんだという事にしておこう」
「えっ? 何か言いました?」
「いんや、なんでんなか」
そう言って私の顔を一瞬覗き込むようにして眺めた後、鯉登さんは未だ文句や苦言を言う皆のところへ戻っていった。ほんの一瞬近距離で目が合った鯉登さんが、あんまり優しい目をしていたから私の鼓動は早くなって、しばらくは落ち着かなかった。
結局その日、海の帰り道に鯉登さんの奢りという事で美味しいスイカパフェが食べられるという、普段なら足を踏み入れることもないフルーツパーラーに皆で行き、むしろアシㇼパちゃん達は大喜びをした一日になった。