手のひらのハート

 何かをゴソゴソ探しているかと思えば、ノートの切れ端のようなものを一枚持って彼女が戻ってきた。
「なんだ、メモ用紙欲しかったのか。郵便ポストに入っていたチラシの裏紙がそこにあったのに」
「違うの、そういうのじゃなくて。本当は可愛い紙が一番良かったんだけど、なかったから仕方なくこれにしたの」
「そうか」
 まあ、これはこれで当時っぽいかも。そんな事を独りごちながら彼女は俺に隠すようにその紙に何かを書いていた。覗き込もうとすると「見ちゃダメ!」と制止される。また何か思いつきで始めたんだろう、いつもの事だと思いながら缶ビールを煽る。
 書き終えたのか彼女はペンを置き、今度はその紙を折り始めた。意外と覚えているもんだな、あれでもここどうだったっけ。そんな呟きがぶつぶつと聞こえる。出来上がったのか彼女はまたペンを取り、何かを書き加えた後俺に対して「はい、どうぞ」と渡してきた。
『DEAR⇨はじめc (cは○で囲まれている)』と書かれたハート型のそれに「なんだ、これ」と思わず声が漏れる。
「なんかね、SNSで平成一桁ガチババアって言葉が流行ってるみたいで」
「ばば、あ? なんだそれ」
 あまり彼女から出てくることのない言葉の羅列に眉を顰めるとケラケラと笑いながら彼女が続けた。
「響きだけ聞いたらすごいよね。でもなんかそれで、私くらいの年齢の人が十代の頃流行ってた文化とかがすごく流れてきて、懐かしいなってなっちゃって。こういう手紙、よく学生時代で友達と送り合ってたな〜と思ってさ。可愛いメモ帳とか、後ルーズリーフとかで」
「そうだったっけか」
「基さんのところはそういうのなかった?」
「学生時代女子とそんな交流してなかったからな。どちらかと言えば怖がられてただろうし」
「それたまに聞くけど全然想像つかないなー、当時の基さんの写真とか見れたらいいのに」
「そんなのないし、あっても見せない」
「えー」
 そう言いながら彼女は隣に座った。手紙、開け方わかる? と聞かれてそうだったと手元の小さなハートを見る。表と裏を見て、ここから開ければいいのかと考えそっと開けていく。字も普段の彼女のものとは違う、当時の事を思い出して書いたのだろうか。俺だって、十代の頃の彼女のことは知らないのだから、写真でもなんでも見れる機会があったら見たいものだけどなと思いながらハートを開く。
『最近デートしてなくて寂しいな。おうちでのんびりもいいけど、今度のお休みはどこかお出かけしませんか?』
 そう、少し崩した丸い字で書かれているのを見た後隣を見れば、ほのかに顔を赤くしてへらりと笑った彼女が目に入る。
「わざわざ手紙にしなくても」
「基さん忙しそうだし、疲れてるかなぁって」
「別に大丈夫だ。どこか行きたいところあるか?」
「うーんそうだなぁ。あっ、じゃせっかくだから学生の放課後みたいなデートしてみちゃう?」
 それは、学生時代に当時の彼氏としたデートの再現ということか? そんな考えが一瞬過ぎったが、まあそれはそれで上書きするという意味で楽しめばいいだろうか。どこがいいかなと考える彼女の隣で、俺はそっと彼女からのお誘いをまた小さなハートへと戻していった。

初出・2025/09/28
金カ夢一本勝負「手紙」にて。GR!開催中で別作品執筆中でしたがどうしても書きたくて。現パロで原作と同じ年齢設定にしたら月島さんも平成一桁世代になっちゃうんだな…わお…という気持ちです。