吐く息がすっかり白くなる季節。バイト終わりの帰り道。団体客が入っていたためにいつもより少し閉店時間が押して帰るのが遅くなってしまった。
「流石に危ないから送る」
そう言ってくれたキラウシさんと肩を並べて歩いているのだから、今日はきっとついている日なのだと思った。
「寒いですねぇ」
「すっかり冬だな」
「冬の夜空って、綺麗で好きなんですよね」
「確かにいつもより星が綺麗に見える」
二人で首を傾け星空を眺める。そうして見上げた空には、三日月が浮かんでいた。
「今日は三日月なんですね」
「そうだな」
「ふふ、何だかキラウシさんが笑った時の口元みたい」
「そうか?」
くすくすと笑いながら、ある事をひらめいた。この流れだったら、不自然じゃなく言えるだろうか。
「ねえ、キラウシさん」
「ん?」
「月が、綺麗ですね」
かつてどこぞの文豪が、アイラブユーをこう訳したという。想いを口にした事はないけれど、ずっと片思いをしているキラウシさんへの遠回しで精一杯のアピールだった。意味が通じなければそれでいい、もし通じていてもその話を知らなかったということにすればいい。想いを知られたいのか知られたくないのか複雑な乙女心でそんな事を考えていた。そして、キラウシさんがどんな反応をするのかほんのりと期待を込めて待った。
「……そうだな」
ほんの少しの間の後に、キラウシさんはそうぽつりと言った。知っているのか知らないのか、どちらとも判断がしづらいこの反応に頭を悩ませていると、同じように少し悩んだキラウシさんが困ったように笑いながら口を開いた。
「そういうのって、普通満月の時に言うんじゃないのか?」
「えっ、そうなんですか」
「……まあ、満ちてても欠けてても、お前と見る月はいつも綺麗だけどな」
「……えっ、と」
いつもの調子で笑顔を浮かべてそんな事を言うもんだから、キラウシさんの気持ちが読めなくて心臓が早鐘を打った。
「それ、は……どういう?」
「さあな」
そう言っていたずらに笑うキラウシさんの顔に、期待してもいいんだろうかと心の中で問いかけた。二人の関係が満ちるまでは、きっと、もうすぐ。