十九日目「身を寄せ合う・爪先・オトナ」

 もーいーかぁい。まーだだよぉ。
 そんな声が耳に入り、チビどもがかくれんぼをしているのかとぼんやり考える。盆と正月に集まる親戚のこの家は、古い造りではあるが広くてかくれんぼには最適なのだろう。
 毎回遊んでくれと絡んでくるチビどもから上手いこと逃げ切れたなと思いつつ、誰もいなさそうな部屋を見つけてそっと身を隠す。まだ僅かに残っている冬休みの課題を早く片付けてしまいたかった。だけど、
「あれ、夏太郎にい」
「げっ」
「げっとは何よ。傷付くなあ」
「何してんだお前、そんなところで」
「ん? ちびたちに付き合ってかくれんぼ」
 誰もいないだろうと踏んで入った和室、そこから僅かに開いた押入れの中から出てきたのは三つか四つ下のはとこだった。
 
 いとこやはとこ同士の中でも一番歳が近い存在であり昔はよく懐かれ遊んだが、思春期を迎えてからはあまりそうする事もなくなった。こいつは相変わらず夏太郎にい、夏太郎にいとよく擦り寄ってはきていたが。
「お前もよく付き合うよなあそんなのに」
「夏太郎にいと違って私は優しいのさ」
「まだまだガキって事だろう」
「何をぅ」
 揶揄うようにそう言っていると、廊下の方からチビたちの誰かの声と足音が近づいてくる。どうやらかくれんぼの鬼らしい。
「あ、やば。見つかっちゃう! ほら夏太郎にいも隠れて!」
「え? あ、おい」
 なんで俺まで、と思う間もなく俺は腕を掴まれ押入れの中まで引っ張り込まれる。十代も半ばを超えた男女が二人入るには狭いスペースの中で、声を潜めて身を寄せ合う。
「おい、なんで俺まで」
「あ、そっか。夏太郎にいは参加してないんだった」
「ったく、狭いから出るぞ」
「待って今出たら私も見つかっちゃうじゃん」
「……ったく」
 やけに近い距離に変に意識をしてしまって、あまり顔を見ないように視界をずらす。互いの足がぶつかる距離。ふと彼女の爪先が目に入った。
「お前、靴下も履かないで寒くないの」
「ん? あぁ、さっきお風呂場で隠れようと思ったら濡れちゃったから脱いじゃった」
「何やってんだ」
 黒のスキニーから覗く彼女の素足、その先には彼女のあどけない見た目とは似つかわしくない赤が彩られていた。
「それ」
「ん?」
「そういうの、大丈夫なのか。学校とか」
「ああ、ペディキュアのこと? 普段は靴下履いているから見えないし、怒られないよ」
「ふぅん」
「ふふ、どう? オトナっぽいでしょ」
「別に」
 ニヤッと笑ったその顔は、いたずらを思いついた幼い頃と変わらないのに、どこかあの頃とは違った。
「夏太郎にいは、いつになったら私をガキとしてじゃなくてオトナとして見てくれるのかなぁ」
 赤く色づいた爪先で俺の爪先を突き、そして器用に足の甲からふくらはぎまで爪先を這わせる彼女に、思わず心臓が跳ね上がる。
「バッ、何言ってんだお前」
「あは、動揺しちゃって。ウケるー」
「ったく、もう俺は出るぞ」
 ガラリと押入れを開けて抜け出す。後ろからは「夏太郎にいだって、まだまだガキじゃんねえ」と笑う声がする。くそ、覚えてろよと思いながらも、その日は悶々とした気持ちを抱えて課題も進まず夜眠れもせず、どうしようもない日になったのだった。

初書き夏太郎でした。翻弄したい、可愛い。