二十日目「そのうなじに・今だけは・赤い頬」

 彼女がいつも集団とは離れて歩くことには、もうずっと前から気付いていた。
 
 定期的に開かれる大学の友人たちとの飲み会に、バイトさえ入っていなければ俺は大抵参加していたし彼女もそれは同じようだった。そんなに強くはないお酒を数杯飲んでは、時折会話に混じりつつもみんながわいわいと盛り上がっているのをニコニコと眺める彼女。最初は単純に、楽しめているのか? と気にかけていたのだが、気がついたら彼女がどこに座っているのか誰と話しているのか、気になって仕方がなくなっていた。
 共通の友人が多いためお互い飲み会には参加するものの、大学では被っている講義も少なく学内では話す機会はほとんどない。それでも学内でも不意に彼女の姿を探して、挨拶だけでも出来る日は浮かれて過ごすようになっていった。
 
 そう、だから本当言うと、ゆっくり話す機会になればいいと思って、わざとみんなより店を出るのを遅らせたんだ。
 
「あのさ、もしよかったらこの後二人で抜けない?」
 そう言うと彼女は赤い頬をしてコクリと静かに頷いた。寒空の下、真っ赤な顔をしているのは寒さのせいかアルコールのせいか、それとも俺のせいなのか。出来れば、俺のせいであればいい。今だけは、俺のことで頭がいっぱいになって欲しい。
 熱を帯びた顔を隠そうとしているのか、必死に下を向く彼女。あんまり首を傾げるものだから、服の隙間から彼女のうなじがのぞいていて。むくむくと込み上げるよからぬ気持ちを慌てて振り払いながら、俺は彼女に自分の巻いていたマフラーを差し出した。
「なんだか寒そうだね、これ貸してあげるよ。俺ので嫌じゃなければ、だけど」
「え、でもそしたら杉元くんが寒いんじゃない」
「ん? 俺は、今何だかポカポカしてきたから平気」
「……ありがと。杉元くんは、優しいね」
 嬉しそうにはにかんだ顔に少しの罪悪感。まさか、そのうなじに触れたくなった煩悩を隠すためだなんて、彼女は微塵も思っていないのだろう。
 そんなことないよ、と自分自身の欲望をひた隠して彼女に微笑みかける。せめて今だけは、まだ彼女にとって「優しい杉元くん」を繕えていますように。そう願いつつも、俺のマフラーを巻いた彼女が思ったよりもそそられるものがあって。また別の煩悩と必死で戦いながら、彼女との仲を深めるべく取り繕う俺なのであった。

十三日目の別視点。