この人は本当になんでもそつなくこなしちゃうんだなぁ、と私は目の前にいる鯉登音之進を見て思った。
知人が良かったらと言うのでチケットを譲ってもらい、その日は子供の時以来ぶりにアイススケート場へと訪れた。スケートはした事がないという音之進に、これは珍しく経験者として教えてあげられるぞなんて思っていたのに。実際には、数年ぶりで感覚を忘れ滑れなくなっていた私と、初めてだと言うのにあっという間に感覚を掴みひらりとターンまで決められるようになった彼の姿がそこにはあった。
「……くそう」
「大丈夫か? ほら、手を貸せ。一緒に滑ろう」
「や、やだ恥ずかしい」
「いいから意地張ってないで、立ち上がれないんだろう?」
「うぅ……」
こけて尻餅をついた私の元へ颯爽と滑ってきて、音之進はそう言って手を差し出す。まるで王子様のようなその風貌に私は悔しくもありときめきもし、忙しい感情を抱えながらその手を取った。しっかりと支えられバランスを崩すこともなく立ち上がり、彼にゆっくりと手を引かれながらリンクの上を滑っていく。
「うん、いいぞ。その調子だ」
「……ン」
素直で愛情表現の豊かな音之進とは違って、私はどちらかといえば恥ずかしがり屋だし人前で手を繋ぐのなんて苦手な方だった。だけど、スケート場では周囲を見渡せば、滑るのが苦手なものたちが恋人や友人、親子を問わず手を繋ぎながら滑っている姿ばかりだ。ここでなら、私も素直に音之進と手を繋ぐことができる。何も気にせず彼に触れられるここだけ楽園みたいだ。
そんな事を思いながらその日は目一杯滑り、時に転びながら少しずつ子供の頃の感覚を取り戻していった。音之進の手を握らずともリンク内を何周か滑れるようになる頃には、そろそろ帰ろうかと言う時間だった。
お互い貸出用のスケート靴を返却し、スケート場を後にする。外では煌びやかな装飾が街を彩っていた。もうすぐクリスマス、そして音之進の誕生日だ。
「もうそんな時期なんだねぇ」
「ん?」
「クリスマス」
「ああ、そうだな」
「欲しいもの決まった?」
「特には」
「そっか」
白い息を吐きながら、隣にいる音之進はそう言う。実家が裕福な彼は、欲しいものなんて自分で手に入れるだろうから私から何を贈れば喜ぶのかとずっと考えてしまっている。
「……ねぇ、あのさ」
「なんだ?」
「……手、繋いでもいい?」
「ん?」
普段なら申し出ない私からのその言葉に、音之進は目を丸くした後それはそれは嬉しそうに手を差し出した。
「どうした、今日は素直だな」
「ちがっ、……さっきずっと繋いでたから、なんかほら、手が物足りなくて」
「なんだそれは」
私の変な言い訳に彼は愉快そうに笑う。繋がれた手がくすぐったくて、ぎゅっと握り返す。
「私はずっとこうして触れたいんだけどな」
「……恥ずかしい」
「はは、ナマエはそう言うだろうなと思ったよ」
「恥ずかしい、けど、誕生日の日は、いいよ」
「……ん?」
「誕生日は、音之進の好きなようにしていいから」
手を握ったまま並んで歩いていたのに、音之進はぴたりと足を止めた。私も合わせて足が止まる。
「音之進……?」
「
「え?」
「
「え、なになに?」
顔を真っ赤にした音之進が、はぁーと長めのため息をついた後私の手をぎゅっと握り直す。
「もう訂正はなしだからな」
「え?」
「誕生日、楽しみにしてるぞ」
イルミネーションに照らされながら見る彼の笑顔はいつも以上に眩しくて、私の心臓を締め付けた。
後日、音之進の誕生日にあらゆる要望を告げられて「そう言うつもりじゃなかった!」なんて私が慌てたのは、また別の話。