夕陽が沈むのも随分と早くなった。学校からの帰り道、なかなか来ないバスをひたすらに待つ。隣には幼馴染の宇佐美時重の姿。
「あーもう寒い」
「寒い寒い言われると余計寒く感じるからやめてくれる?」
「だって寒いんだもん。バス全然来ないし」
顔が出来るだけ出ないように首をすくめてマフラーの中に入り込んで、もこもことした姿で地面を踏む。少しでも動いて体を温めたかった。
「うー、時重なんか面白い話ないの。寒さを忘れるくらいの」
「何その無茶振り。ないよ」
「うぅ〜……そうだ、ゲームしよゲーム」
「ゲーム?」
「騙し合いゲーム」
「何それ?」
「なんか今日クラスの子がやってた。お互い、嘘か本当か微妙なラインの話をしてそれがどっちかを当てるみたいなやつ」
教室の中心で何人かで盛り上がっていた姿を思い出す。そのグループとはあまり仲良くはないので混ざりはしなかったけれど、楽しそうだったなと記憶に残っていた。
「それ面白いの?」
「わかんないけど、クラスの子はそれで盛り上がってたから」
「ふぅん。じゃあお前から」
「えっ!? うーん、そうだなぁ……私は昨日の英語の小テスト、満点だった。さあ嘘か誠か?」
「いやもうそれ絶対嘘じゃん。お前英語苦手だし」
「わかんないでしょ、そんな私が急にこんなこと言い出すなんて、満点だから嬉しくて話したくてたまらないのかも、とか思わないの?」
「もしそうだったらこんな回りくどいことせずに昨日採点してからすぐ言ってくるだろ」
「うっ、確かに……ちぇー見破られた。じゃあ、次時重ね」
「うーん、嘘か本当か微妙なライン、ねぇ……」
空を眺め白い息を吐きながら時重はゆっくりと考え、そして私の方を見て言った。
「僕はお前のことが好き」
「……へっ、え、なっ」
「さぁ、嘘か誠か?」
「う、うそうそ。嘘に決まってるじゃん」
「どうしてそう思う?」
「ど、どうしてって、えぇ?」
憎まれ口ばかり叩くけれど、黙っていれば非常に整った顔の幼馴染は私の顔をじっと見つめて私からの答えを待つ。だって、今までだってそんな素振りを見せたことは一度もない。
「だって、ただの幼馴染だし。時重が私のこと好きなわけないし」
「なんで?」
「な、んでって、だから……だって、好きならもっと優しくするでしょ。いっつも意地悪ばっかだもん。ほら、だから嘘だよ、嘘」
「……ふーん」
私が必死で捲し立てると、時重はそれだけ言って顔を背けた。
「ちょ、ちょっと答え合わせは?」
「さあね。どっちだろうね」
「それじゃゲームにならないじゃん!」
「じゃあ、ヒント。好きな子ほどいじめたくなる男っているんだって、知ってる?」
ほんの少し拗ねたような口ぶりで、でもいたずらに笑った時重の表情に顔に熱が集まっていく。
「はは、もう寒くなさそうだね?」
「や、なに、言って」
そう言いながら、時重は私の頬に自身の手を重ねる。ひんやりと冷えた時重の手のひらが、私の頬の熱を奪っていく。
「うん、これで僕の手まであったかくなりそう。熱を分けてくれてありがと」
「な、なに、なんっ」
「あはは、金魚みたい」
顔を真っ赤にして上手く言葉が発せず口をぱくぱくとさせる私を時重は笑ってからかった。
「あ、ほら。バス来たから乗るよ」
「え、あ、うん」
結局その日は答え合わせをしないまま、二人無言でバスに揺られる。同じバス停で降りて、互いの家までの分かれ道、もう一度だけ「嘘だよね?」と問いかけた。
「さあ、どうだろうね?」
振り向きながら笑う時重の顔に、動揺を通り越してなんだかむかついてきて、私は時重の手を握ってこう言った。
「誠なら、あんな告白の仕方なしだから。ちゃんと言って」
「言ったらちゃんと答えてくれるの?」
「……じゃあ私から問題。私は、時重をずっと前から好き。嘘か誠か?」
時重のびっくりした瞳に、顔を真っ赤にした私が映り込む。ふーんと満足げに笑った時重の顔が近づいて、そして先ほど奪われた熱は唇から分け与えられた。
答え合わせなんて、それで十分だった。