二十五日目「聖なる夜の過ごし方」尾形編

 正直言って、料理は嫌いではないけど好きと言うほどでもなかった。経済的にも栄養的にも気にはなるから、なるべく出来る日には自炊をしているという、ただそれだけだ。
 だけど、最近では少しずつ料理を楽しむようになっていた。お隣の尾形さんに、時折お裾分けをするようになったからである。
 
 先日尾形さんから野菜をお裾分けしてもらい、お返しがてら頂いた野菜で作った料理を何品かお裾分けしてからは、度々作りすぎた時は尾形さんにお裾分けをするようになった。
 ほとんど初対面の女の手料理なんて嫌がられるかしらとも思ったが、「いつも美味そうな匂いさせてたのはあんたの部屋からだったのか」と目を丸くさせ尾形さんは保存容器に入れた煮物を受け取った。数日後、再び顔を合わせた尾形さんが綺麗に洗われた容器を部屋から持ってきて、「美味かった」と無愛想ながらも優しく言うものだから、思わず舞い上がった私は「よく作りすぎてしまうので、よければまた食べてもらえますか?」と声をかけた。
 彼は目を見開き瞳孔をキュッと細くした後、「まあ、タイミングが合えばな」とぴっちりと整えた髪を撫であげていた。
 
 そうして互いのお裾分けが何度か行われ、だいぶ打ち解けられるようになったと感じていた頃、休みだと言うのに珍しく尾形さんと廊下で鉢合わせた。
「こんにちは。お出かけですか?」
「近くのコンビニに行くだけだ。そっちは?」
「私も近所のスーパーからの帰りです」
「折角のクリスマスに、何も予定がないのか」
「あはは、お恥ずかしながら。せめてクリスマス気分を味わおうとそれっぽいものを作って追加でチキンを買ってきたところなんです。尾形さんもよかったらどうですか?」
 いつもの調子で声を掛けたけれど、よく考えたら尾形さんほどの男の人だ、もしかしたらこの後デートの約束でも入っていたかもしれない。そう思って慌てて手を振る。
「なんて、私と違って尾形さんはお忙しいですよね」
「いや、あいにく俺も暇なんでね」
「あ、じゃあ後で持って行きますね」
「……どうせ隣なんだ、一緒に食べてもいいか? 俺の部屋でも、あんたの部屋でもいい」
「えっ、あ、じゃあうち来ます? えっと、ちょっと散らかってますけど」
「じゃあコンビニに行ってからそっちに行く。酒は飲めるか? 適当に買っていく」
「あ、はい。飲めます。ありがとうございます」
 
 思わぬ展開になったなと思いながら、急いで部屋を片付け、料理を温め直した。程よいところでチャイムが鳴り、扉を開けて尾形さんを出迎える。
「あ、えと。いらっしゃいませ」
「店員なのか、あんたは」
 そう言って笑った後、尾形さんはワインの入った袋を渡してきた。二人分のワイングラスを取り出し、温め直したロールキャベツとカボチャのサラダ、じっくり煮込んだオニオンスープに先ほど買ったチキンもテーブルに並べていく。うん、なんだか少しはクリスマスっぽい。
「一人でこれだけ食べるつもりだったのか」
「いつものように作りすぎちゃって。後で尾形さんにお裾分けしようかなあなんて思ってたんです」
「……ははぁ、最初から家に招いてくれたらもっといいワインを持って訪ねてきたんだがなぁ?」
 そんな考えちっとも思い至らなかったな、なんて思いながら目の前にいる尾形さんを眺める。数週間前まではただの怖いお隣さんだったのに、不思議なものだ。
「なんだ、そんなに見て」
「あ、いえいえすみません。えっと、食べましょうか」
「ああ。それじゃあ、乾杯」
 尾形さんが注いでくれたワインを飲みながら、尾形さんが分けてくださった野菜で作った料理を食べ進める。思いがけず楽しいクリスマスになったなとお酒が入った頭でぽわんとしながら考えていると、いつの間にか隣に移動していた尾形さんが私の頬を撫でた。
「クリスマスに家に男を招いたんだ。少しは期待してもいいのか?」
「へ……あ、えっと」
 顔に熱を集まるのを感じながら、そのまま私は固まった。そんな私を尾形さんはくつくつと笑いながら、頭を撫でた。
「冗談だ。だけど変な奴もいるんだから気をつけろよ」
「お、尾形さんなら、いいと思って招いたんですよ……?」
 私がそう言うと、今度は尾形さんが固まり私の顔を眺めた。しばらくの間そうした後、ニヤリと口角を上げ尾形さんは顔を近付け、吐息が触れる距離で囁いた。「いいクリスマスになりそうだ」と。

十二日目の二人のクリスマスのお話でした。