キャンディケイン

 目を離したのは、ほんの数分。
 家族連れで溢れている休日の商業施設では、お手洗いにも長い列が出来ていた。
 トイレに行きたいと言い出した娘を先に子ども用の小さな手洗いスペースに連れて行き、その後は娘を基さんにお願いして私も列の最後尾に並んだ。
 用を済ませ近くのベンチで待っているはずの二人を探したけれど、見当たらない。
 どうしたもんかと思いながらとりあえず基さんに電話をかけると、少し後ろの方から着信音が聞こえたので振り返った。
「あ、ママー!」
「なんだ、そっちにいたの」
 電話が通じるよりも早く、私の姿を見つけた娘がお気に入りのスカートを揺らしながら駆け寄ってきた。
「すまん、あっちに気になるものがあるって聞かなくて」
「ううん、待たせてごめんね。……それで? 気になるものって、それ?」
「これー! おうちのツリーにもかざってあるの、たべられるほんものがあったよ!」
 透明なビニル袋に、赤と白のしましま模様の杖型のキャンディが入っていた。確かに我が家のツリーオーナメントにもこのキャンディケインはある。もちろんそれは偽物だが、本当に食べられるものもあるんだよという話を先日飾り付けをしながら話していた。
「おいしそうだなぁ、ムスメちゃんもたべてみたい」と目を輝かせていた娘を可愛いと思っていたが、まさか本当に見つけてくるなんて。
 キャンディを大事そうに握り締める娘に「じゃあ、お家に帰ったらね」と私は頬を撫でた。「どんな味がするかなぁ」と楽しそうな姿を見ながら私はほんのりと苦笑いを浮かべる。基さんはそんな私に気が付いて「やっぱりキャンディはまずかったか?」と心配そうに声を掛けた。
「ん? ううん、大丈夫」
 普段虫歯予防に私がキャンディをあまり与えないからそう思ったのだろう。だけど、私が懸念しているのはそこではないのだ。
「多分だけど、あの子ちょっとだけ食べてすぐいらないって言うと思うわ」
「どうしてわかる」
「うーん、母親の勘かな?」
 先ほど基さんたちが歩いてきた道を思い出す。おそらく二人は、海外のお菓子がたくさん立ち並ぶお店であのキャンディケインを見つけ出したのだろう。だとすれば、きっとあれは本場の味に近いはずだ。日本人の子ども用に作られているなら、話は別だけど。

 帰宅してすぐのこと。手洗いうがいをお利口に済ませた娘は一口舐めた後、「ムスメちゃんこれすきじゃないかも……」としょんぼりとした顔で私におもちゃのようなキャンディを差し出した。パパくらい甘い甘い味のものだったらよかったのにね、なんて思いながら、ほんのりすーっとするミント味の杖を私はゆっくりと味わったのだった。