スノークリスタル

 私たちが普段住む土地から、新幹線で約二時間。
 数ヶ月ぶりに降り立つ新潟の地は、空気が冷えているように感じる。まだ駅構内にはいるけれど、電車内で温まっていた体温が急激に下がっていく。
「うぅー、寒いね」
「そうだな。温かい飲み物いるか?」
「大丈夫」
 こちらを気遣う素振りを見せながらも、彼の表情が普段より固く見える。
「バス、ちょうどいいのありそうか」
「うーん、多分? 最悪タクシー使おっか。やっぱり迎えに来てもらえばよかったかな」
「そういう訳にはいかないだろう」
「ふふ、そっか」
 彼と付き合いだして二年半ほど。一緒に私の実家へ帰るのはこれで五度目だ。最初は同棲をする前、夏に一度。それからは毎年盆と暮れには一緒に帰っている。今年のお盆は彼の仕事の都合で私一人の帰省になったけれど、両親からは「月島くんはどうしたんだ」「月島さんは元気なの?」と私よりも彼に会いたいのかという反応ばかりだった。よほど両親は彼を気に入っているらしい。
 だから安心していいんだけどな、と思う私の気持ちとは裏腹に、やはり緊張した面持ちで彼は手土産を大事そうに握りしめている。
「基さん、緊張してる?」
「そりゃあ、まあ」
「プロポーズの時とどっちが緊張してる?」
「わからん。比べられん」
「ねえねえなんて言うの? やっぱり娘さんを僕にください?」
「そんな事言ってお父さんにぶっ飛ばされないか?」
「多分それで怒るタイプじゃないよ。後お父さんの力じゃ基さんは絶対ぶっ飛ばせない」
 そう言いながら、彼の胸ぐらを掴むけれどうんともすんとも行かない父の姿を想像して吹き出してしまう。彼も同じ想像をしたようで、少し表情を柔らかくして笑った。
「うちの親なら、大丈夫だよ」
「そうは言ってもな」
「ほら、出口こっちだよ」
 誘導するように駅構内から出ると、ちかちかとイルミネーションが輝いていた。
「わ、今年も綺麗だね」
「そうだな」
 誰もが見上げて通ってしまうような、光り輝くけやき通りのイルミネーションは毎年帰省のたびに楽しみにしていた。昨年はちょうど雪が止んでいるタイミングでここを通ったけれど、今年は少しだけ降っている。イルミネーションを見上げたいのに、風に舞う雪が頬に当たって冷たくて仕方ない。
「もっとゆっくり見ていたいけど、早く行かなきゃ凍えちゃう」
「ご両親も待ってるだろうしな」
 そう言って進みだした彼の顔は、少し緊張がほぐれたようだった。優しい表情を浮かべた彼に、心の中でもう一度大丈夫だよとエールを送り、私もゆっくりと歩きだした。