真っ赤な林檎

 目の前で泣き喚く娘に、今日はもうやめるべきなのではないかと悩んだ。
 柔らかい光の差し込む窓辺で、ふんわりとした白い椅子に座らされた娘の前に、まだ若そうな女性とベテランオーラを醸し出している女性が二人がかりであやしている。ナマエが隣で駆け寄りたそうだが、ちょっと待ってくださいねと言われ二人でオロオロするばかりだ。
 カシャンと音がして強い光がさす。ピーピーピーという音と共に大きな機材を抱えた男性が少し位置を変えながら明るい声で娘へと声をかける。
 未だ泣き止まない娘に痺れを切らしたのか、カメラマンの男性が「それじゃあすみません。お父様かお母様、抱っこしてあげてください」とこちらを振り返った。
 慌てて駆け寄り抱き上げると、待ってましたとばかりに娘は俺にしがみついた。ムチムチとお肉がついているが、それでもまだ小さい腕にこんなに力があるのかと驚くほどだ。
「よしよし、頑張ったねぇ」
「あぁ、こんなに涙も鼻水も出て。ナマエ、ティッシュあるか」
「はい。これでお顔綺麗にしようね〜」
 少しでも機嫌が良くなるよう二人で娘へ声を掛ける。来る直前にナマエが授乳もおむつ替えも済ませてきた。単純に俺たちと離れて知らない大人に囲まれているのが不安なんだろう。
 体をゆらゆらとさせながら抱きあやすと、大泣きしたせいで赤く染まった頬がぷるぷると揺れる。まだ笑顔を見せる様子はない。
「よかったら、ムスメちゃんが興味持ちそうなおもちゃとか見てもらって大丈夫ですので。ご機嫌治ったらもう一度頑張ってみましょうか」
 にこやかにベテラン女性が言うと、若そうな女性がこちらですどうぞ〜と誘導した。なおも娘に声を掛けながらついていくと、色々なぬいぐるいや積み木、小さなケーキの模型などが並べられた棚があった。
「ほぉら、何か好きなものはあるか?」
 指をしゃぶりながら俺にしがみついている娘に声をかけ、その棚を見るように体を向ける。これは? これなんかはどう? と猫やウサギのぬいぐるみを持ってきては見せるナマエには目もくれず、ムスメはあるものに手を伸ばした。
「あらぁ、これが好きなの〜。はい、どうぞ」
 すぐさま察したベテラン女性はプラスチックでできている真っ赤なりんごを娘に手渡す。あぶ、あぶぅと言葉にならない声を発しながらムスメは機嫌よくそれを掴んで眺めた。
「お父さんお母さん、今です。もう一度座らせてみましょう」
 その誘導にまた慌てて戻り、りんごのおもちゃに気を取られている娘をそっと椅子の上に座らせた。“1/2”と書かれたプレートやフリフリのドレスをスタッフ達が綺麗に見せるよう調整をしている。そそくさとカメラの後ろ側に回り込むと、再びカシャン、ピーピーピーという音が鳴り響いた。
「わぁ、いいねえ。おいしそうなりんごだねぇ〜! そうそうそう、にっこりさんだよ〜!」
 カメラを持った男性がハキハキと明るい声を娘へと投げかける。まだ歯も生えていないというのに娘は、りんごのおもちゃを口にくわえぱくぱくと口を動かした。最近離乳食が始まってからは、食べ物への関心が強いらしい。
「おもちゃなのに、あれが食べ物ってちゃんとわかってるんだろうな」
「ぬいぐるみよりりんごだなんて」
「誰かさんに似て食いしん坊だな」
 もう、やめてよ、とナマエが俺の腕をつつく。ムスメはまんまるとした頬を手に持つりんごと同じくらいに赤く染めながら、美味しいものを食べた時のナマエとそっくりな笑顔で笑った。

月島さんハーフバースデーって言葉知らなさそうで可愛いですよね。