「あい、パーパ。あーん」
「ん? ああ、ありがとう」
基さんは、ムスメが差し出す木製のにんじんを受け取ろうとする。けれど、娘は手を引っ込め首を横へと振った。
「あーん!」
「んむ……あー、ん」
意図を察した彼はそう言ってにんじんの前で口を大きく開け、その後齧り付いたような動作をした後モグモグと口を動かした。
「あー、おいしいぞ。ありがとう」
「ふふ、パパとおままごと出来ていいねぇ。でもそろそろ本物のご飯だからお片付けしてねー!」
ムスメはまだ遊びたそうにしたが、また後で遊ぼうと基さんが声をかけるとニコニコと笑っておもちゃ箱へままごとセットをしまい、手を洗いに行った。
テーブルの上には、いつもより少しだけ頑張ったクリスマスのメニューが並ぶ。とはいえ、大きなチキンやローストビーフはまだ娘が食べられないから、今日のメインはオムライスだ。娘には丸く形を整えて、チーズやにんじん、ケチャップを使って顔を作る。子供に大人気パンのヒーローオムライスだ。
大人用には朝から煮込んだビーフシチューをたっぷりかけて。それからポテトサラダとブロッコリー、トマトやハムでクリスマスツリーのような形に盛り付けたサラダと、ムスメでも食べやすい小さなサイズの鶏の唐揚げを。
取り皿やお箸とスプーンを並べると二人がテーブルへとやってきた。ムスメは自分用のプレートを見て大好きなキャラクターのオムライスに手を叩いて喜んでいる。
「あとでケーキもあるからね」
「やったー!」
「どれも美味そうだ。ほら、いただきますしよう」
三人で手を合わせてご飯を食べる。ムスメはこんな小さな体のどこに入っていくのかというくらいにサラダや唐揚げももっともっとと欲しがるから、ケーキが食べられなくなっちゃうよと基さんと二人で笑った。
お皿の上がだいぶ片付いた頃、娘も基さんもまだケーキを食べる余力がありそうな事を確認して冷蔵庫から取り出した。切り株を模したブッシュドノエル。お誕生日の時に食べたイチゴと生クリームのケーキが大好きな娘のために、今年はチョコクリームではなく真っ白なクリームがたっぷりと周りに塗られているものだ。
「わあい、ケーキ! いちご!」
キラキラした目でケーキを眺めると、「はぴばーすえー、する?」と言われて笑ってしまう。ちょっと違うかな、と答えたけれど小さな声で彼女はハッピーバースデーの歌を口ずさんだ。最近は保育園で毎月お誕生日会をやっているから自然と覚えてしまったらしい。
「はい、これがパパの。こっちがムスメちゃんの」
「おっきい! パパ、ちいさい?」
自分のと基さんのを見比べて、自分の分の方が大きいように感じたらしい娘は嬉しそうにしながらも首を傾げた。歳のせいか甘いものがそんなに食べれないとこの間基さんがこぼしてたから、少し小さめに切っただけなのだけど。
「ムスメちゃんの、あげる! はい、あーん!」
「いや、いいよ。パパはこれだけで大丈夫だから」
「あーん!」
自分が食べるより先にフォークで乱雑にすくったそのケーキを、娘は身を乗り出して基さんへと差し出す。根負けした彼はチラリと私を見たあと観念したように口を開けた。
「うん、おいしい。ほら、あとは自分で食べなさい。パパはいいから」
「ママは? いっぱい、ある?」
「うん。ママは甘いものがだーいすきだから、いっぱい取ってるよ。だから大丈夫!」
私の分の皿を見せてあげると娘は満足そうに頷いて、今度こそ自分用にケーキを口へと運んだ。たどたどしいながらも、お誕生日の時よりもずっと上手にケーキを食べられるようになった姿に成長を感じる。
時々娘が食べるのを手伝いながら自分の分も口へ運ぶ。控えめながらも口の中いっぱいに広がる甘さにお腹も心も満たされていく。あっという間に食べ終えてしまった基さんは、結局物足りなかったようでもう一切れ食べようかと悩んでいた。
「まだもうちょっと欲しいの?」
「ん? うーん。だが一切れは多いような気もする」
「じゃあ、ほら。はい、あーん」
まだ私の皿にはケーキが半分近く残っていた。先ほどのムスメのようにフォークで大きめにすくって差し出すと、彼は目を丸くして私と娘を交互に見た。ニコニコと見守る娘を前に、「自分で食える」「いいから、ほらあーん」というやり取りをしたあと、彼は少し躊躇いながら口を大きく開けた。
「パパとママ、なかよし!」
「そうだよ、パパとママはね、仲良しなんだよー」
ねー、と基さんに顔を向けると、彼は照れたように笑った。恋人時代はたまに行っていたやりとりも、娘を前にすると恥ずかしいらしい。
「もう一口、いる?」
「いや、いい。今ので十分だ」
そら、パパとママで交代しようと基さんは娘の方へと向いた。彼の横顔を見ながら食べるケーキは、先ほどよりも甘くなったような気がした。