至福の時間

 ようやく今日は布団が干せる。気持ちいいほどに晴れた空を眺めながら私はうきうきと寝室から布団を運んで行った。
 ここ数週間、休日を迎える度に雨を降らせる空を何度恨めしく思ったか計り知れない。二人分の布団を干すのは大変ではあるが、週末に行う家事の中でも大好きな家事のひとつだ。だって、休みの日に干したばかりの布団に包まれてする昼寝の幸せと言ったら、何ものにも代えがたい。それが愛しい人とであれば尚のことである。
 
 折角の休日だと言うのに呼び出され休日出勤が確定した私の愛しき恋人、尾形百之助は昼には戻ると言って先程気怠げに出て行った。百之助も頑張っているのだからと私は私で日頃行き届かない家事を済ませていくと、家にいるのだから構えとでも言うように足元でぷみゃ! みゃう! と鳴く声が聞こえる。
 フォゼ尾。この可愛い生き物は、百之助と一緒に住み始めて半年が過ぎた頃ペットショップで出会い一目惚れした子である。いつかは何かを飼いたいとペット可の物件を探して正解だったとあの日は心から思った。ペットショップの店員に詳しく話を聞き、スマホ片手に必要な物を買い揃えた後、次の休日にフォゼ尾を迎え入れた時は地に足がついてなかったのではないかと思う。
 そんな愛すべき我が家の天使を手のひらに乗せ、百之助が帰ってきたらびっくりしちゃうくらいお家キレイキレイしようね〜と声を掛ける。みゃう! と手を上げてフォゼ尾用にと増えていった玩具を懸命に片付けるその後ろ姿が可愛くて仕方がない。短い動画を撮って百之助に送りつけ、片付けを再開させた。
 
 洗濯を二回まわしては干し、掃除機をかけ床の拭き掃除をし、昼食の下拵えまで終えたところで布団を取り込み寝室へと運ぶ。ベッドメイキングを終え、光の差し込む寝室で一人ベッドに腰掛け一息ついてるとフォゼ尾がおかたづけしたよ! ふふん! と言いたげな顔でぷみゃぷみゃと鳴いて近付いてくる。
「わぁ〜お片付け頑張ったねぇ!」
「みゃう!」
「百之助もきっと褒めてくれるよー!」
「ぷみゅ、ぷ、みゃあ!」
 足元をよじ登ろうとするフォゼ尾を再び手のひらに迎え入れる。頬擦りをしようとすると勢いよくフォゼ尾が激突してきて思わずそのままベッドに倒れ込む。
「ちょっと、フォゼ尾勢いつけすぎだよー」
「みゃぅ……」
 申し訳なさそうにフォゼ尾が顔を覗き込むので、痛くないよ大丈夫と笑いながら撫でる。干したばかりの布団の上に横たわったままの状態でフォゼ尾と戯れていると、先程まで張り切って家事をしていた反動もあってかうとうととしてしまう。百之助はまだ少し掛かるのかな、と薄れていく意識の中考えながら、私は気が付いたら眠ってしまっていた。
 
「……い、……だろ…が」
「んみゃ! ぷぅ!」
「こら、離れろ」
 気がつくと百之助の声が聞こえた。いつの間に帰ってきたのだろう。体を起こそうとすると、ドサリと背中側に何かが落ちてくる。びくりとすると背中から腕が回り込んできて、それが百之助の身体だったと気付く。
「ったく、仕方ねえ今日はお前にそこを譲ってやる。俺はこっち側だ」
「みゃうみゃう!」
「だがな、本来そこは俺の特等席なんだぞ。忘れるな」
「ぷみゅー」
 一体何のことかと思えば、満足げにフォゼ尾が私の胸元に頭を擦り付けていた。その様子に私の背から「ったく……」と物言いたげの百之助の声が聞こえる。もしかして、この場所をフォゼ尾と奪い合っていたのだろうか。そういえば、百之助は今のフォゼ尾のように私の胸元に抱きついて眠るのが好きだったなと思わず笑みを零す。
 頑張ってこの場所を勝ち取ったフォゼ尾の事を人撫でした後、そぅっと寝返りを打って私は百之助の方を向いた。
「おかえり、百之助。お疲れ様」
 そう言ってちゅっと触れるだけのキスをすると、起きてたのかと小さく呟いた百之助は先程のフォゼ尾のように私の胸元に頭を擦り寄せた。肩越しにぷみゅぷみゃあ!とフォゼ尾の悔しそうな鳴き声が聞こえるが、今ばかりは許してもらおう。
 そうして二人で、もとい、二人と一匹でまた少しだけ眠りについた。あたたかい光の中愛しい人たちとの干したばかりの布団での昼寝という、最高に至福の時間に包まれながら。

金カ夢一本勝負にて「特等席・ひかり・手のひら」のお題に尾形で書いたものです。
この時期ふぉぜ尾が欲しくてたまらなくてずっと思いを馳せてました。
今はゲットしてお部屋に飾られております。可愛い。
初出・2022/09/24