やっと見つけた

A (モブ注意)

 懐かしい声が聞こえた気がして、私は足を止めた。こんなにたくさんの人がいると言うのに、つい探してしまう。
 こんな事は、今までにもあった。その度、声の主は見つからずに気のせいだったかと肩を落とした。今回もそうなのかもしれない。
 行き交う人々は、立ち止まった私を訝しげに見ながら通り過ぎていった。きっと邪魔になってしまっている。今回も気のせいだったのだろう。小さくため息を吐いて歩き出すと、背を向けた方からやはり同じ懐かしい声が聞こえ、私は慌てて振り返った。
 あんなに低い声なのに、私の耳は決してそれを聞き逃さなかった。昔からそうだった。周りの人が「なんて言った?」と聞き返すようなボソボソとした喋り声だって、一つとして聞きこぼさないようにしていた。彼のことが好きだったから、何一つ取りこぼしたくなかった。
 その、大好きな彼が、目に止まった。
 昔見た時とは、ずいぶん雰囲気が柔らかくなったように思う。着ている服のせいだろうか、それとも身にまとう空気感なのだろうか。なんだっていい、もう探していたような気持ちなのだ。早くもう一度、彼の声をこの耳ではっきりと聞きたかった。
 来た道を、人をかき分けながら急ぎ足で歩いて行く。やっと見つけた。そう思って「尾形さん!」と声を掛けると、彼は驚いたように振り返った。隣にいた女性もきょとんとした顔で振り返る。
「ああ、尾形さん。やっと会えました。ずっと会いたかった、一目でいい、会いたかったんです」
 そう捲し立てる私を、彼はじっと見つめた後眉を顰めた。
「……あんた、誰だ?」
 その言葉で、私の笑顔は崩れていった。昔は、一緒に旅をしたじゃないですか。あの頃百年前からずっとあなたしか見ていないというのに、そんな怖い顔、しないでよ。


B  

振り返ることはできなかった。どうして、と力なく涙を流す女性の姿は、一歩間違えてしまった自分だったかもしれないから。
 隣では尾形さんが「変な奴だったな」と眉を顰めながら歩いている。無理もない。前世の記憶が戻っていないのだから。先ほどの女性や、私と違って。 
 遠い昔では、彼の旅の途中ほんのひと時そばにいただけ。それでも、ずっと心に残っていた人。 
 現世で彼と再会してから、私は慎重に距離を縮めていった。彼に記憶がないとわかっても、現世での彼に再び惹かれ関係を築いてきた。だからもうこの繋がれた手を離したくないの。今ではもう、ここが私の帰る場所だから。

診断メーカーのお題を使って書いた話。どちらも文字数制限もあったため短めです。
Aは「懐かしい声が聞こえた」で始まり「そんな怖い顔しないでよ」で終わる物語。
Bは「振り返ることはできなかった」で始まり「ここが私の帰る場所」で終わる物語。
初出・2023/08/03~2023/08/04