とける、とけない、とけやしない

「おい、まだ食べてんのか」
 目の前にいる女に声を掛ける。間抜けな顔をしたままパッケージを眺めていた女は、目線をチラリとこちらに寄越した後銀紙に包まれたチョコレートをパキッと噛み砕いた。
「駄目だこれ、全然わかんない」
「なんだ」
「ここになぞなぞ書いてあるんだけどさ」
 えらく凝視していると思ったが、パッケージに書かれたなぞなぞを解こうと思っていたらしい。ほらこれ、と渡されたものを見れば、なんだこれくらいと思えるほど簡単なものだった。答えを言おうと口を開くが、それに気付いた女はすぐさま止めに入った。
「だめ、答え教えないで、自分で考えるから」
「そんなもん解いてる暇あったら、こっちの問題一つ解いたらどうだ」
「やだ、今休憩中〜」
「チョコ食べる間休憩って話だろうが」
「だからまだ食べてる。休憩中。勉強のためには糖分補給、重要」
 そう言い始めてからゆうに十分近くは経っていると思うが。そもそもこれは、夏休みの課題がまだ終わってないからサボらないか見張っててというお前からの頼みだろうが。
「あ、やばい。とけた」
「やっとわかったか?」
「違う、チョコ。持ってたとこ溶けて柔らかくなってきちゃった」
「そりゃお前の体温高い手でずっと握ってたらそうなるだろう」
 銀紙を剥がし、ベトベトしてると笑いながらも女はチョコを最後まで食べ切った。
「よくいっぺんに一枚食べ切れるな」
「え、普通でしょ」
「ひとかけらで十分足りるだろ。ほら食べたんだから、続きするぞ」
「ちぇー、尾形先生はスパルタだなぁ。なぞなぞ、まだ解けてないのにぃ」
「いいからほら、こっち解け」
 溶けかけたチョコレートを口の端につけたまま唇を尖らせて、女はシャーペンを手に取った。
 こんなガキくさい同級生の我儘に振り回されて、それでも断れずつい付き合ってしまうのは何故なのか。その謎は俺にも、今はまだ解けそうにない。

金カ夢一本勝負お題「とける」にて
アイスかチョコか悩みましたが、ちょっと前にアイスネタ書いたんだったと思ってチョコにしました。 初出・2024/08/25