拾ったからには最後まで

 かたん、と小さく響いた音で目が覚めた。今日はまたえらい早いお帰りで、と心の中で声を掛ける。他の皆は気付いていないようだが、生憎視界を奪われたこの体は他人よりも聴力に頼って生きている為か、些細な物音にも反応してしまう。
 最近あの娘が夜中に出掛けているのは気付いていたが、それでも夜が明ける前には戻ってきていた。だが、今日は既にお天道様が登り始めている。あと少し遅ければ誰かが起きて鉢合わせしていた頃だろう。流石にそろそろ注意をしても良いのではないか、と重い腰を上げた。
 
 そもそもこの娘は、旅の途中行き倒れているのを拾ったのが始まりだった。なんでも盗賊に襲われ家族を失い、本人も命からがら逃げ出したところがこの娘と我々の出会いだった。自身もかつて盗賊をやっていた身ではあるが、どこかその娘を不憫に思い、せめて回復するまでは世話をしてやらないかと土方さんに掛け合ったのは、他でもない自分だった。
 体が回復してからも娘は、恩を返させてくれ、せめて飯炊きくらいは、とせっせと働いていた。この飯がまた美味いもんだから、誰も何も文句を言わず、まあ危ない目には合わせないよう気を付けながら、この娘を我々のそばに置いておく事にしたのだ。
 その娘が、最近になって夜出歩くようになった。よもや、この金塊争奪戦で別の陣営と組んでいるのではないかとも思ったが、余程の手練で我々を完全に騙し切れているのでなければ、全く無縁の平凡な小娘としか思えなかった。どちらかと言えば、年頃の娘だ、近くに恋仲の男でも出来て夜な夜な逢引している方が納得が行く。しかし、いくらなんでも朝帰りとなれば示しがつかないだろう。他の陣営があの娘を利用しようと狙っている可能性もゼロではない。囚人でもなく野心がある訳でもないあの娘を金塊争奪戦に巻き込みたくはないというのは、どこかでずっと思っている事であった。
 拾ってきたものは、拾ってきた人間が最後まで責任を持たなきゃならない。つまり、俺が一言言ってやるべきだろうと思ったのだ。
 
「おい、お嬢ちゃん。いくらなんでもこんな時間まで布団を抜け出すのはどうかと思うぞ」
「……! お、起きてらしたんですか」
「お嬢ちゃんが夜な夜などっかに行ってたのは気付いていたよ。どこかに好い人でも出来たのかも知れんが、毎晩ってぇのは感心しないねぇ」
「ち、違うんです……その……」
 弁解しようとしたその娘の声が、いつもよりどこか鼻声だと気付いたのはその時だった。てっきり見つかった事、そして注意を受けた事に泣きでもしたのかと思ったが、どうやら様子がおかしい。
「おい、お嬢ちゃん。一体何があったんだい?」
「いえ、その……」
「なんだい、何かあったんだろうその様子は。目の見えない俺じゃ、頼りにならないかい?」
「そうじゃないです! ……実は、」
 そう涙声になりながら話した娘がいう内容を簡潔にまとめると、どうやら傷を負ったフクロウを保護し、こっそりと手当していたのだと言う。夜行性のフクロウは昼間は寝ているだけなので回復しているのか判断に悩む為、夜な夜な抜け出しては少しずつ元気を取り戻す姿を見に行っていたそうだ。だが、今夜は見に行くとフクロウは冷たくなっており、ショックで泣きながら埋めている内に夜が明けたという事だった。
「フクロウ、ねぇ」
 この辺りでフクロウを見かける事は、全くない訳ではないが少ない。それでも微かに土の匂いをさせたこの娘の言う事に嘘はないようだ。
「多分、どこかで何かに襲われて、一生懸命逃げてきたんだと思うんです。その姿を見たら、私……私、他人事に思えなくて。だから……」
 ひっくひっく、と時折しゃくり上げながら娘は言う。それを言われてしまえば、まあそうだろうな……と何も言えなくなる。
「でも、誰にも内緒でこんな事して、ごめんなさい」
「いやぁ何、嬢ちゃんが何かに巻き込まれた訳じゃないなら、それでいいさ。生き物を拾ったら最後まで責任取らなきゃいけねぇ、嬢ちゃんはちゃんと最後まで面倒見きったって事だ。よくやったな」
「と、都丹さぁん」
 わぁっと先程よりも勢いよく泣き出す娘に、今度は俺が狼狽える番だった。
「おいおい、これじゃ俺がお嬢ちゃんを泣かしたと思われる。勘弁しておくれ」
「うぅ……あのフクロウ、ちょっと都丹さんに似てたんです……なのに、なのに助けられなかったぁ」
「似てたんだか知らねぇが俺は生きてるんだ、あれこれを一緒にして余計に泣くなよ」
 結局この後起きてきた土方さんや牛山に、何嬢ちゃんを泣かしてるんだと笑われる羽目になった。まったく、散々な朝だった。
 
 その後なんやかんやと皆をはぐらかし、朝餉を取りながら、さて今日はどういった流れで動くかと皆で決め合った。そのすぐ後、あの娘が隣に来た。
「都丹さん、あの……さっき言ってた事なんですけど」
「なんだ? 今日の流れに何か分からない事でもあったか?」
「いえ、そうじゃなくて、あの……」
 何か言いたげな声をしながら、娘は小さく呟いた。
「生き物を拾ったら、最後まで責任持たなきゃいけないんですよね」
「ん? あぁ、その覚悟がねぇとな」
「わ、私のことも、最後まで責任取ってください、ね」
「……ん?」
 言い終わるや否や、ぱたぱたと足音を立て娘は去っていく。まったく、本当になんて日なんだろうな。こりゃあもしや、とんでもないもんを拾ったんじゃあるまいか、と頭を抱えながら、残りの味噌汁を啜った。

金カ夢一本勝負「朝帰り」というお題にて。都丹さん初書きでしたし、これ以降書いていません。土方一派って私の中で難しい。好きなんですけどね。
初出・2022/08/06