奇妙な三人

「おい、迎えに来たぞ」
 そう言って坊主姿の男子生徒が入ってくると、目の前にいた彼女は嬉しそうに立ち上がった。
「え、もしかして君の彼氏?」
「ううん。隣のクラスのひゃ……じゃなくて、尾形くん。幼馴染なの」
「へぇ、そうなんだね」
「無愛想だけど、これで優しいとこあるから杉元くんも仲良くしてね」
「誰だそいつ」
 尾形というその男はむすっとしたまま俺の方をちらりと見る。これで優しい?本当かよと思いながらも一応笑顔を浮かべて自己紹介をする。
「俺は杉元佐一」
「私と杉元くん、クラス委員に選ばれちゃって。これからよろしくねって話してたところなの」
「ははぁ、また押し付けられたな」
「別にいいの!こういうの嫌いじゃないし。委員会とかで遅くなっても気にせず帰っていいからね」
「待たねぇよわざわざ」
 そう言いながらも尾形は彼女の鞄を手に取り、ほら帰るぞと彼女を促す。まるで、目の前にいる俺なんていないかのように。
「おいちょっと待てよ。まだ話の途中なんだ」
「あ、ごめんね杉元くん。百ちゃんもうちょっと待ってね、先に帰っててもいいし」
 チッと舌打ちしながら百ちゃんと呼ばれた尾形は近くの席に腰掛けた。待っているという意思表示なのだろう。
 これが、俺たち三人の出会いだった。
 
 初めて同じクラスになった彼女と偶然クラス委員になって、それから彼女に恋に落ちるまではあっという間だった。どんな時も笑顔を浮かべ人当たりもよく、柔らかい雰囲気を纏うのに委員の仕事はしっかりとこなす彼女に俺はどんどん惹かれていった。
 だが、いつだっていい雰囲気になると邪魔してくる幼馴染の存在になかなか進展しないまま一学期が過ぎていった。彼女はよく〝百ちゃん〟とはそういうんじゃないよと笑っていたが、あいつが彼女に気があるのは明らかだった。
 図書館で勉強をしたり委員の仕事をしたり帰り道に寄り道をしたり、何かをしようとすると必ずと言っていいほど着いてくる尾形がいるせいでなんだかんだと三人でつるむ事が増えていった。俺としては彼女と二人でという気持ちがあったが、俺と尾形がつるむとニコニコと笑って「百ちゃんと仲良くしてくれて嬉しい」なんて言うもんだから無碍に出来なかった。

 二学期になって、俺達はクラス委員ではなくなった。俺は体育祭実行委員、彼女は文化祭実行委員となり、それぞれの二学期のイベントの準備に追われるようになった。お互い大変だねとたまに労いあって寄り道をした。もちろん、おじゃま虫も一緒だ。
「もうすぐだね、体育祭」
「すごいよなうちの学校。体育祭があってその一ヶ月後には文化祭。準備大変だよ」
「ふふ、でも楽しくっていいじゃない。杉元くんも百ちゃんと一緒でリレーに出るんでしょ?」
「なんだ、尾形もリレーなのか」
「お前もか杉元。さてどっちが勝つかな」
 春に比べて随分と伸びた髪をかきあげながら尾形は言った。お前には負けないと聞こえたような気がした。
「ところでさ、うちの学校、体育祭の最後のフォークダンスの時に好きな人同士ではちまき交換するんだって知ってた?」
「なんだそれは」
「あぁ知ってる!なんかマンガみたいだよねぇ」
「ねぇ〜! 杉元くんなんか人気者だから色んな子から交換しないか誘われてるんじゃない?」
 無邪気に笑う彼女に、君となら交換したいけどねと言いかけてグッと飲み込む。じろりと尾形の視線が刺さった。
「そんな事ないよ。尾形だって、意外と女子に人気だろ? 誰かと約束でもしたのか?」
 言ったあとでもし彼女と尾形が交換の約束をしていたらどうしようと後悔した。が、そんな事は全くなさそうだった。
「ふん、くだらん。俺はそんなもんには興味ない」
 その尾形の言葉に、いつだって笑顔の彼女の顔が少しだけ曇った気がしたのは、きっと気のせいだと俺は言い聞かせた。
 
 バタバタと日々が過ぎ、体育祭当日。体育祭実行委員の為あちこちを駆けずり回りながら自分自身の競技にも出てと忙しい一日だった。リレーでは尾形に勝ったのでまあよしとしよう。
 あっという間に一日が過ぎ、少しの休憩の後フォークダンスが始まる予定になっていた。僅かな時間の間に俺は声を掛けてきた女の子達にごめんねと謝りながら彼女の姿を探した。やっと見つけた彼女は、人気のない場所で佇んでいた。よく見ると、頬が濡れている。
「ど、どうしたの!?」
「あ、杉元くん……!しーっ!」
 彼女は慌てて唇に人差し指を押し付け、背後を気にしてソワソワしていた。その方向を見ると、尾形が女子に声を掛けられ断っているところだった。
「ふふ、百ちゃんったら本当にモテるんだから」
 寂しそうに笑う彼女を見て、ああ俺はきっと失恋するんだなと悟った。
 
 瞳をうるませた状態で俺達の隣を先ほどの女子が駆けていく。その後で面倒臭そうな顔をした尾形がゆっくりと現れた。
「なんだお前ら、覗きとはいい趣味だな」
「ちがっ、たまたま通りかかっただけだよーだ!」
 赤くなった目元を見られないように、彼女はくるりと振り返り颯爽と走って行く。おい、と追いかけようとする尾形の肩を掴み俺は一言言った。
「お前はさ、もう少し……幼馴染の尾形くんでいてくれよ」
「は?」
「あと少し、せめて進級するまででいいからさ」
「何言ってんだお前」
「俺達、一応友達だろ?」
 友達、と言われて尾形の瞳孔がキュッと細くなる。友達が少ないらしい尾形にとって、この言葉が少しは効くといい。
 
 いいだろ。だって、お前らはきっとこれから先も一緒なんだ。あとほんの少しの間に希望をかけて、もう少し彼女と友達の振りをして好きでいたって、それくらい許されるだろ?
 誰を相手にかわからない許しを心の中で問いながら、さっぱりわからないと言う顔をした尾形を置いて、俺は彼女の後を追った。
 まあ、結局のところお互いグズグズしていたせいで、この奇妙な三人の関係が卒業まで続いたのはまた別の話、という事にしておこう。

Twitterにてフォロワーさんのツイートを元ネタにお借りして書きました(許可済み)
尾形夢なのか杉元夢なのか悩みましたが、視点が杉元なのでこちらで。
初出・2022/09/13