これは決して嫉妬ではない
俺には憧れの上司がいる。
任された仕事はなんでもそつなくこなし、後輩へのフォローもいつもバッチリ。小柄なのにがっしりとした体に仕事モードの時はむすっと無表情だから怖そうに見えるけれど、決して理不尽に怒られたことなど一度もない。ミスをしたらしっかりと指摘するが、改善策とフォローは欠かさない。そして仕事が上手く行った時には、たまにしか見せない笑顔で「よくやったな」と褒めてくれる。そんな上司だ。多分だけど、この部署の半数近くは月島課長のファンなのではないかと勝手に思っている。
そんな上司には、最近彼女が出来たらしい。
「お、月島課長、今日も弁当っすか」
「ん。まあな。お前は今日もコンビニか」
「そうなんすよ。正直もう飽き飽きなんですけど、この辺昼時はどこも混むんで」
「はは、そうだな」
少し前までは課長と一緒に近くの定食屋に行くこともあったが、ここ最近はそんなことも減っていった。それは月島課長がデスクに広げている、彩り豊かで栄養バランスもバッチリそうな弁当のせいである。元々課長が自身で弁当を作って持ってくることもあったが、タッパーに入った茶色いおかずにでかいおにぎり二つだった頃とは雲泥の差である。
「今日のも美味そうっすね」
「ん……そうだろう」
「いやー羨ましいっす」
自分の席へ座る前に見えた月島課長の弁当に対してそう述べる。自分の弁当を開ける前に先に喉を潤そうとペットボトルの蓋をグッと握ると、「ありがたいことだよ、本当」と月島課長は嬉しさを噛み締めるように顔を緩ませて卵焼きを頬張った。
見たことのないその表情に、俺の指先からペットボトルの蓋が転がり落ちていった。それを拾い上げながら、思わずぽつりと「ずるいっすわぁ」と声が漏れた。
「そんなに羨ましがるな。お前だって、彼女くらいすぐ出来るだろ」
「そんなことないですし、そういう事じゃないっす」
「ん?」
何言ってんだという表情をしながら課長は尚もおかずを口へと運んでいった。
彼女に美味しそうな弁当作ってもらう月島課長に対してじゃなくて、課長にそんな表情させる彼女さんが羨ましくてずるいと思ったなんて、とてもじゃないけど言えそうにない。
初出・2024/08/31