肉食べ行こう!

 それはまさに、青天の霹靂というやつ。
 昼休みが終わる間際のこと。今日は28日だとカレンダーをチラリと見た後、近くに座る同僚に声をかけた。
「月島くん、明日焼肉行く?」
「あぁそうか、29日か……悪い、明日はG社と打ち合わせしてそのまま食事会の予定になってる」
「あ、そうなの? 先月もタイミング合わなかったよねー」
 すっかり焼肉の口になっちゃってたのに、なんて冗談めいて笑うと、あまり悪びれもしない様子で月島くんは「すまん」と言い、まだ何か続けるように口を開いた。しかし、それを遮るように宇佐美くんから声を掛けられたのだ。
「ミョウジさ〜ん、月島さんがダメならで行きましょうよ。焼肉」
 ニンマリと両頬のほくろの位置を上げている宇佐美くんの横で、無表情のまま眉だけをピクリと動かした月島くんの視線が私と宇佐美くんの間を何度か行き来した。
「ちょ、ちょっと宇佐美くん」
「いいじゃないですか〜、別に奢れなんて言いませんよ僕」
 一瞬ピリッと張り詰めた空気なんてものともせず、宇佐美くんはわざとらしいくらい猫撫で声で続けた。この間言っていたいい考えって、もしかしてこれのこと?
 笑顔を張り付けたままの後輩と無表情のままの同僚に見下ろされながら、私はただただ居心地の悪さを感じていた。

***
 
 そもそもの始まりは、半年ほど前のこと。
 入社歴も長くなり、後輩も出来て、任される仕事も増えた頃、私は大ミスをやらかした。大きなプレゼンで使うため作成していた資料の情報が、何度か訂正の入っていたというのに新しいものと古いものが全てごちゃ混ぜになったまま印刷されていたのだ。資料作成していたのは私だった。
 幸い、前日に再確認をしたので配布前に訂正をすることが出来た。だが、気付いたのは終業時間の一時間前。ごちゃ混ぜになった情報のどちらが正しいものか確認してデータを作り直し、印刷をかけて……という作業のために残業をしていた。手伝うと声を掛けてくれた人もいたが、自分のミスだからと断り黙々と作業をしていた。
 ただ一人、同僚の月島くんだけが断ったにも関わらず手伝ってくれたのだった。
「ごめん、遅くなるからいいよ。私のミスだし」
「人数多い方が作業も早いし、また誤りがないかダブルチェックした方がいいだろ」
「う……ごもっともです。ごめんね、あとで何か奢る!」
「おう。いいから手を動かせ。集中しろ集中」
 お互いここからここまでと分担をし、修正しては確認してを繰り返した結果、覚悟していた残業時間の三分の一ほどで作業が終わった。
「ほんっとありがとう! さすが月島くんだね、めちゃくちゃ早く終わったし助かった!」
 最終チェックを終え、両手を掲げて天を仰いだ。勢いよく背中を預けたせいで椅子がひっくり返りそうになりバランスをとっている私の隣で、帰り支度をしていた月島くんのお腹が、これまた勢いよくぐうぅっと鳴った。
「……聞こえたか」
「うん、これでもかってくらいはっきりと。ごめんね、遅くなって! 奢る! 給料入ったばかりだしなんでもいいから!」
 任せてくれとばかりに握った拳で胸を勢いよく叩く。月島くんは「米が食えたらなんでもいい」と言ったが、だからと言って近くの定食屋とか牛丼屋じゃ私の気が収まらなかったし、何より疲れていてガツンとしたものが食べたい気分だった。
「うーん……あ、じゃあ駅前に新しく出来た焼肉屋さん行かない?」
「焼肉?」
「うん。この間チラシ配ってて、確かドリンク割引券がついてたはず……ほらこれ! 食べ放題!」
 先日何気なく受け取ってバッグの中に入れていたチラシを取り出し月島くんに差し出すと、その紙へ視線を落とした月島くんのお腹がぐうぅと返事をした。しまったとばかりに手のひらで顔を覆う月島くんに笑いながら、「決まりね、行こ!」とフロアを後にした。
 店についてみれば、人が多く賑わってはいたけれどなんとかすぐに席へ案内してもらえた。食べ放題プランが三種類あり、せっかくだからいいやつにしようかと言ったけれど、月島くんが早々に一番安いプランとビールを二つずつ店員に頼んだ。奢るから気にしなくていいのにと言ったが、彼曰く「俺の今日の働きはこれぐらいが見合っているだろ」との事だった。
 すぐに最初の盛り合わせとビールが運ばれてきて、改めてありがとうとジョッキを軽くぶつけた。ごくごくっと勢いよく喉を鳴らしたかと思えば、机にジョッキを置いた後すぐさまテーブルの端に置かれたタッチパネルに触れ「お前も米はいるか?」と聞かれる。
「ううん、いらない。え、月島くんってお酒飲みながらご飯食べるタイプ?」
「ん? そうだが」
「そうなんだ。米が食えたら、なんて言ってたのにビール頼むから不思議に思ってた」
「酒に合うものは米にも合うだろ」
「いやそうだけどさ」
 温められた網の上に適当に肉を並べながらそんな話をしていると、そういえば月島くんと二人でご飯に行くのはこれが初めてだなと思った。職場の飲み会や、数名でご飯を食べに行くことはこれまでにもあったけれど。
「他になんか頼みたいものあるか」
「え、あ、じゃあ野菜欲しいかな。焼き野菜の盛り合わせと、あればチョレギサラダとか」
「わかった」
 まだ食べ始めてもいないのに彼が追加の肉を頼んでいる間に、網の上に乗せられた肉は少しずつ身を縮めながら色を変えていった。注文が終わった頃、何度かひっくり返して焼き加減を確認してひょいひょいと焼き上がった肉を何枚か皿に入れる。ほら、食べて食べてと促すと雑に手を合わせた後大きく開けた口に肉を運び、それからすぐにビールを喉に流し込んだ。
「おぉ、早い早い」
「すまん、腹が減ってた」
「だろうね。さっきの音すごかったもん」
「忘れろ」
 少し恥ずかしそうに顔を歪ませた彼にまた笑っていると、ようやく大盛りのご飯と追加で頼んだお肉やサラダが運ばれてきた。
「すご、ご飯山盛りだね。サラダいる?」
「いや、いい。焼き野菜はもらう」
「もちろんどうぞ。また適当に焼いちゃうね」
「俺も焼くからそっちもちゃんと食え」
「あ、ありがとー」
 カルビにロース、鶏肉に豚バラ、それから少しの焼き野菜を隙間を埋めるように網に並べた後、サラダに箸をつける。ミニサイズで頼めるのはとてもありがたい。半分ほど食べ終わったところで箸をトングに持ち替えてまた肉をひっくり返す。合間にビールを飲んで、また肉の加減を見て、それぞれの皿に移して口に運ぶ。もちろん会話を挟んではいるけれど、月島くんの食べるペースが早いから途中からいかに効率よく焼いて食べてもらうかを考えて手を動かしてしまった。
「追加、追加まだいるよね? 何がいい?」
「ぐ、なんかすまん。さっきからずっと焼いてばっかじゃないか?」
「いやいや、私も食べてるよ。でもなんか、月島くんの食べっぷり見てたらお腹いっぱいになってきて」
「なんだそれ」
「いいから、ほら何頼む?」
 実際、月島くんの食べる様は見ていて気持ちがいいくらいだった。あれだけ山盛りだったご飯はあっという間に減っていって、すでに三杯目。お肉も色んな種類を二人前ずつ頼んでいるのに、焼けたそばから大きな口の中へ消えていくのだ。一時期大食い選手権が流行った時に一体何が面白いんだろうと思っていたが、なるほど今なら少し気持ちがわかるかもしれない。自分では食べられない量のご飯が目の前であっという間に、しかも綺麗になくなっていく様子は不思議な高揚感を私に与えた。
 月島くんって、男性にしては小柄な方だと思うけど結構食べるんだな。別に太っている印象もないのに。しかも食べながらビールもしっかり飲んでる。あ、嘘。まだ頼むんだ。さては時間ギリギリまで食べれちゃうタイプだな。私はもうデザートのアイスで締めてもいいかなってくらいなのに……当たり前のように私のお皿にも焼いたお肉乗せてくれるんだ。
 テーブルの中央から伝わってくる熱とお酒で血の巡りが良くなったせいか、私の体はポカポカと温かくなった。そんな中で、今まで気にしてなかった同僚の一面を見て、なぜだか私はその時思ったのである。
 あれ、私もしかして、月島くんの事好きになるのかも、と。
「なんだ、どうした? このハラミ食べたかったか?」
「ううん、大丈夫。もうお腹いっぱい」
「そうか? 俺はまだ食えるんだが……」
「うん。私のことは気にせずどんどん食べて」
 こんな色気のない会話をしながらも、そんな予感がしていたのだ。

 予感は見事に的中し、それからの私にとって月島くんは、ただの同僚からつい姿を目で追ってしまう人になった。元々仕事ができて頼りになる人とは思っていたけれど、気にかけて目で追うと意外と抜けてるところあったんだなぁとか、無表情なことが多いと思ってたけど笑う時には顔くしゃくしゃにすることもあるんだなぁ――しかもそれが結構可愛いんだなぁ――とか。
 だけど私たちの関係は、特に何が変わるということはなかった。ただ一つ、毎月焼肉を食べにいくようになった事以外は。
 
 初めて焼肉に行った日。元々の約束通り私が会計を済ませると、店員から新しくチラシとクーポン券を渡された。
「こちら、次回利用出来るクーポンです。当店、毎月29日は肉の日という事でお得な食べ放題プランをご用意しておりますので、よければまたお越しください」
 そう言われて、そういえば今日って肉の日だったかぁと思い出す。口直しのガムをもらい、チラシを眺めながら店の外へ出ると、「ご馳走さん」と待っていた月島くんに言われた。
「こちらこそ、残業本当にありがとう。あ、これガム」
「ん? あぁ……なんだそのチラシ?」
「なんかクーポンと、肉の日のメニュー? だって。そういえば今日29日だったね」
 ガムと一緒に差し出すと、月島くんはそれに目を通した後「旨かったし、また来るか」とポツリと言った。
「うん。いいね、また来たい。月島くんの食べっぷり見てて気持ち良かったし」
「なんだそれ」
「あ、でも次は奢らないからね」
「もちろんだ」
 またいつか、のつもりで交わした約束は、あっさり次の月の29日に果たされた。特に何があったわけでもないのに、職場を出るタイミングが一緒になった月島くんにエレベーターの中で思い出したように「ミョウジ、今日肉の日だし焼肉行かないか」と誘われて予定もなかったからそのまま行って。やっぱり同じように気持ちのいい食べっぷりを堪能してお腹いっぱいになってまたクーポン券をもらって。
 それが何度か続いて、結果的になんとなく毎月焼肉を食べに行く二人になったのだ。

 ***

「えっ、僕てっきりミョウジさんと月島さんって付き合ってると思ってたんですけど、そういう訳じゃないんですかぁ〜?」
 突然の後輩の発言に思わず口に含んだお茶を吹き出すところだった。
「は、え、なんでっ?」
「しょっちゅう二人でご飯食べ行ってるみたいだし仕事中も仲良くイチャイチャしやがってと思ってたんで」
「いちゃ……っ⁉︎ してないしてない。確かに最近は同じプロジェクト任されて一緒にいることも多かったけど」
「さっきも焼肉がどうとか言ってたじゃないですか」
 月島くんと違って大きな口を開けることなく上品に牛丼を口へ運びながら宇佐美くんは言った。それは別に深い意味はなくて、なんとなく毎月焼肉一緒に食べに行っている、という経緯をかいつまんで話すと私たちのやりとりを見ながら黙々と食べていた尾形くんが口を開いた。
「二人で焼肉を食べに行く男女というのは、深い仲というでしょう」
「ふか、い……? いや普通の同僚」
「てか百之助それ古くない? いつの時代に言われてた言葉だよ。」
 宇佐美くんに言われた尾形くんがムッとした顔しながらまた丼に目を落とした。そんな彼を気にも止めず、宇佐美くんは「でもまあ二人の間にはそうは見えない何かあるよねぇ〜」と続ける。
「そ、そんなことないでしょ」
 自分の気持ちのせいかと思いドキリとしながらも、誤魔化すようにそう言うと「いや絶対、ミョウジさんだけじゃなくあれは月島さんの方も脈アリなんじゃないですか?」とあっさりと言われてしまう。
「ま、待って待って。私だけじゃなくって、何」
「え? だってミョウジさんが月島さん好きなのはわかりますよ」
「嘘、私そんなバレバレ⁉︎」
「……はい、今のでよーくわかりました」
 しまった、カマかけられてたのか。気付いた時には遅く、宇佐美くんはニッコニコだし尾形くんも面白いおもちゃを見つけたように緩く口角を上げていた。
「ちが……そう言うんじゃ……」
 ゴニョゴニョと言葉を濁す私に、二人は尚もニヤニヤしながらそっと伝票を私に押し付けた。こんな事しなくても、奢ってあげるつもりではあったけど。
 そもそも今ここでご飯を食べてるのだって、29日だし今日も焼肉行くよね? と当たり前のように月島くんを誘ったのを断られたところを二人に見られ、焼肉をせびられたのを「肉奢ってあげる」と牛丼屋に連れて来たからなのだ。入店当初は文句を言ってたけど、結局大盛りだセットだと私一人なら到底行かない金額のものを頼む二人に、たまには仕事の話でもしようかと思ったのに。それがどうして私と月島くんの話になってしまったのだ。
「いやでも本当、ミョウジさんと月島さんって、あと少し何かきっかけがあれば上手くいくと思うんですよね〜」
「……面白がって言ってるだけでしょ、ねぇ?」
 宇佐美くんはこういう時口が上手いから、すぐ乗せられそうになる。尾形くんなら辛辣な意見を言って目を覚ましてくれるに違いないと視線を送ると「まあ、あの人が何の気もなく女性と何度も二人で食事に行くとは思えませんね。ミョウジさんが女性と思われてなかったら知りませんが」と言われる。上げて落としてくれるじゃないの。
「じゃあその脈があるかないか。今度確かめましょうよ。僕いい考えあるんで」
「いや、いい。なんか変な事して職場で気まずくなるのも嫌だし」
「まあまあそう言わずに」
「もう、いいから。はいこの話終わり。食べ終わった? そろそろお店出るからね」
 二人が食べ終わってるのを確認して、伝票を手にレジへと向かう。店を出てからもなんかごちゃごちゃ言ってたけど、さっさと駅へ向かってまた明日と別れた。

 それから数日経っても、私と月島くんが話している姿をニヤニヤと眺めてくることはあれど二人は特に何もしてくることはなかった。その場のノリで言ってただけか、それともやめてくれと言ったのをわかってくれたのかと私は安心していた。
 だから、完全に油断していたのだ。

 ***

 空気が重い。いつもは昼休みは一分でも長く取りたいと思っているのに、今ばかりは早く終わって欲しい。そうすれば仕事仕事と切り替えを促すことだって出来るのに。だけどそうは許さない宇佐美くんは、尚も猫撫で声で続けた。
「ねえ、ミョウジさん。明日僕なら予定空いてますよ〜。それとも月島さんとじゃなきゃダメって事ですかぁ〜?」
 待ってこれはなんて答えるのが正解なの。そういうわけじゃないって言ったら誤解される? でもそうだよなんて下手したら私の気持ちが伝わっちゃうんじゃないの⁉︎
 軽く適当にいなせばいいであろう事を考えている間に、なんとも言えない間が出来てしまい、もはやもう何を答えてもダメな感じになりそうだった。どうしよう、どうしたら。
「なんですか、今度は皆で飯食いに行く流れですか?」
 ぐるぐる悩み続けた私の元に届いたのは、天のお助け、尾形くんの声だった。その言葉に、月島くんが顔を上げる。
「……皆? 今度は?」
「そ、そう。この間、宇佐美くんと尾形くんと牛丼食べに行ってね。ほら、先月月島くんが焼肉行けなかった日。先輩なんだから奢れって言われちゃってさ。あはは〜」
「そうですよぉ月島さん。やだなぁ、もしかして僕とミョウジさんが行ったと思いました?」
 揶揄うようにそう言いながらも宇佐美くんは尾形くんの足を小さく蹴った。「ばか百之助、いいところだったのに」という声が僅かに耳に届く。多分だけど、宇佐美くんは二人で行ったと仄めかして月島くんの反応を探ろうとしたんだろう。後から現れた尾形くんが、そんな状況だとはわからず発した言葉のおかげで私は居心地の悪さから解放された訳だけど。
「明日は月島くん都合が悪いみたい。だからご飯の話はなしってことで。あっ、ほらそろそろ休み時間終わっちゃうから、仕事しよう!」
 ほら、解散解散。そう手を振り後輩二人に離れるよう促すと、片や不服そうに、片やにんまり顔のままそれぞれのデスクへと戻って行った。月島くんはというと、今までの数分なんかなかったかのような顔して「そうだミョウジ、探したい資料があるから手伝ってくれないか」と言ってスタスタと資料室の方へと歩いて行った。
 うーん、これは脈なし、なのかも。

 肩を落としながら、私も月島くんについて資料室へと向かう。仕事モードに私も切り替えなくちゃと顔を上げて先に資料室へと入っていた月島くんに声をかけた。
「えーっと、資料っていつの分のどれ?」
「……なあミョウジ。さっきの話の続きなんだが」
「へっ?」
 気持ちを切り替えようと思った矢先に引き戻され、私は変な声が出てしまった。
「さ、さっき……?」
「てっきり、宇佐美と二人で行ったのかと思った。焼肉」
「違う違う、さっきも言ったでしょ。宇佐美くんと尾形くんと三人で……」
「二人で焼肉に行くような仲なのは、俺だけだと思ってた」
 どの資料が必要か、なんて指示もしないで月島くんは自分で資料を探し出し、そして私に背を向けたまま話し続けた。
「……え?」
「……何言ってんだろうな。すまん、忘れてくれ」
「え、いや、あの。月島くんくらいだよ、二人で焼肉行ったの。最近は、普通にご飯行くのも一対一なんて、ないし……」
 あれ、私こそ何言ってるんだろう。月島くんからさっきのことについて何か話されると思ってもみなくて、頭がいつもとは違う回転をしているように感じる。
「あー……ミョウジ。その、明日は会食があって無理なんだが」
「う、うん」
 ようやくこちらを向いてくれた月島くんは、視線をあちらこちらに揺らしたあと私をしっかり見据えて口を開いた。
「……翌日の土曜。空いてないか」
「えっ」
「いつもの店じゃないが……俺の家の近所の焼肉屋が、今週末はいい肉の日だとかでランクのいい肉が割安で食べられるらしい。ミョウジの家からは少し遠くなるかもしれんが……よかったら行かないか」
「い、行く! 土曜でも日曜でも、どっちも空いてる!」
 思わず食い気味で返事をした私に、安心したような顔をして月島くんが笑った。
「じゃあ、土曜に」
「うん、楽しみにしてる」
 ただの同僚。ただ、毎月焼肉を食べに行く仲。そんな色気のない私たちは、いい肉の翌日が記念日となった。

 こうなるまでがのんびりペースだったのに、いざ話が進むと月島くんってそういう意味でも肉食だったのね、なんて事を知ったり、結局別の日にお礼を兼ねて宇佐美くんと尾形くんに焼肉を奢ることになったのは、また別のお話。

初出・2024/11/23
WEBイベント「ゴールドラッシュ‼︎3」にて展示した作品。
いっぱい食べる月島くんが見たくて。
上司の月島さんもいいけど同期もいいなあと夢を膨らませました。
書いてて楽しかった。